遭遇⑥

「フン!バカが。死んで後悔してろ」そう言うと、シルバーは両手で、肩に背負うように斧を持ち、腰を低く落とす。

「これで、てめぇらに勝ちは、万に一つも無くなった。まずは、若造、てめぇから死ね」

そうシルバーが言葉を吐いたと同時に。そんな事はありえないのだが、レナには同時に見えた。なんとシルバーとカルナの間合いが詰まり、さらにカルナの頭めがけ斧がすでに振り下ろされていた。

さすがのカルナも、この攻撃は予想外で必死に後ろに飛んで躱す。そして何とか、斧の直撃を避ける。

カルナを外した斧は、そのまま地面へ直撃する!森中に響き渡るかと言うほどの大音と共に地面が砕け散る。砕けた地面が無数の石礫となり、カルナたちを襲う。あまりの至近距離でカルナは躱しきれない。少し離れたレナは何とか、シールドの魔法でギリギリ防ぐのに間に合った。

カルナの額から赤い血が流れ出る。それに気付きレナが動揺してカルナに声を掛ける。

「カ、カルナ!大丈夫なの!?」

「ああ、問題無い……」そう言ってカルナは、平然と手の甲で額の血を拭う。

「ガハハ。問題無いだと?少なくとも、血を流しながら言うセリフじゃないなぁ」

そしてまた、シルバーが腰を低く落とし構える。

「今のは、よく躱せたなあ。それは、褒めてやる。だが、たとえ斧を躱せたとしても、石礫は躱せねぇ。そして、その間に又構えを戻す。まさに無敵の闘法よ。さらに付け加えるなら、今のは七十パーセントのスピード。次は百パーセントで行くぜ」

信じられない。今ので七十パーセントなの?レナは驚愕する。こうなったら魔法で私も援護しなくては。しかし、そのレナの考えはシルバーに読まれてしまう。

「おい。女。妙な動きはするなよ。その瞬間にてめぇに標的を変える。てめぇのその位置も、俺様の射程範囲内なんだからなぁ。それとも、さっきみたいに『シールド』の魔法で防いでみるか?出来るもんならよう」

レナは思った。それは出来ない。恐らく、シールドの魔法ではあの斧の直撃は耐え切れない。シールドの魔法は呪文の詠唱なしに結界を張れる利点はあるがホーリーシェルや他の結界魔法に比べ耐久力が格段に低い上に、広範囲は守れない。かと言って、シルバーの攻撃を耐え切るほどの結界を張ろうとすれば、詠唱中に攻撃を喰らってしまう。それをシルバーは理解している。見た目と違い頭がキレる。

どうしようもない……。唯一つ奥義を除いては……。出来れば使いたくない。赤髪の男に出会う前には。しかし、そんな事も言っていられない。そうレナが決意した瞬間!

「え!?」レナはある事に気付き思わず声を上げる。

そのレナの声でシルバーもその事に気付く。

「あぁ?野郎!何処行きやがった?」

そうなのだ、カルナが今いた場所から消えているのだ。

「女ぁ!まさか、てめぇの魔法か!?」

そう言って、構えを解かず、シルバーは目だけでカルナを探す。その額には大粒の汗が浮き出ている。

レナは、シルバーが動揺しているのが良く分かった。何故なら、レナの魔法な訳が無いという事を、シルバー自身良く分かっているはずだからだ。

「え?な……。う、嘘……」レナが、カルナを発見して驚き、思わず両手で口を塞ぐ。

「なっ……!」シルバーが、そのレナの視線に気付き一気に青ざめる。

そう、レナの視線はシルバーの後方に向けられていたのだ。

「じょ、冗談だろ?嘘だと、嘘だと言ってくれよ。そんなわきゃねぇ!」

そう言って、シルバーが後ろを振り返る。すると、シーユーの時と全く同じ様に、首に赤い亀裂が浮かび上がる。そして、それだけでなく、体にも幾つもの赤い亀裂が次々と浮かび上がる。

「あ……、あり……、えねぇ……」

その、最後の言葉と共にシルバーの体が地面へとバラバラと崩れ落ちる。

その後ろで、カルナが刀をゆっくりと鞘に収めている。

「す、凄すぎる……」

いつもなら、バラバラになった死体など見てしまったら、目を背け気分が悪くなるのだが、カルナの神がかり的な強さを目の当たりにして、レナは衝撃のあまりペタンとその場に座り込んでしまった。そして、呆然とカルナとバラバラになったシルバーを見ながら思った。この人となら、カルナとなら、たとえ赤髪の男が相手でも必ず倒せる。村を滅ぼされた時、神を恨みもしたが、今は感謝します。この人に出会わせてくれた事を。レナは心の中でそう思い、目を瞑り、胸の前で手を合わせた。

「大丈夫か?レナ」いつのまにか、カルナがレナの前まで戻り声を掛けてきた。

「え、ええ。カルナの方こそ血が……」そう言ってレナは、震える足で無理やり立ち上がり、カルナの傷を診る。

「もう乾いている……」

「そ、そうね。でも血の跡だけは拭いておくわ」そして、ハンカチを取り出し、カルナの血を拭う。

「それよりも、先を急いだ方が良い。アリスは寝ているのか?」カルナがアリスの方に目を向ける。

「え?ええ」

「そうか」そう言うと、無言のままカルナはアリスを背負う。

「いつも、ごめんね」レナが申し訳なさそうにカルナに謝る。

「気にするな。それより、あれはどうする?」

「あれって?」

カルナに言われてレナは、カルナの言う方向を見る。そこには、シルバーの頭が転がっていた。それを確認して、すぐ様目を背ける。

「二百万ゴールドだそうだ……」

カルナは平然とそう言ったが、僧侶のレナには人の首をお金に換えるという考え自体ありえない発想だった。

「必要ないわ。それにアリスにはとても見せられないもの」レナはわざと毅然とした態度で断った。

そんなレナの態度に対し、唯一言「そうか」と、それだけ返してカルナはシルバーの死体を横切り、森の奥へと歩き出した。

その後を、なるべく死体を見ないようにしてレナは追い掛けた。

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