遭遇⑤
「止めておけレナ、無駄だ」
「で、でも……」
「欲情したケダモノに話など通じない」
このカルナのセリフを聞いていた、子分の一人が騒ぎ出す。
「聞きましたか?兄貴ぃ。あの野郎、うちらの事。ケダモノって言いやがりましたよ~」
「何ぃ~?」シルバーは、怒りで頭中に血管を浮かび上がらせ、カルナを睨みつける。
「どうしやす?兄貴ぃ?」
「フン。決まってんだろうが。男なんかにゃあ用はねぇ。殺せ」
「ヘイッ」
子分達は同時に返事し、皆一斉に腰に掛かった剣を抜いた。そして、そのままカルナに襲い掛かろうかという瞬間。
「ま、待て。お、おおお、お前達」と、何処からか声が上がる。
その声に反応して、子分達が動きを止める。そして、一斉に荷馬車の方へと目を向ける。すると、荷馬車の陰から、ほぼ直角に曲がった猫背の小男がユラリと現れる。その男の顔は、長く伸びた髪で、殆んど見えない。その小男に向かって子分達が、嬉しそうに声をかける。
「シーユーの兄貴!」
そして、その後にシルバーが続けて声を掛ける。
「おう。どうした?シーユー。何故止めた?」
すると、その小男がたどたどしい言葉使いで、ゆっくりと口を開く。
「あ、あ、兄者、ま、ま、町で手に入れた、こ、この剣の試し斬りがした、したい……」
そして、シーユーは手に持った剣を抜き、その刀身をベロリと舐め、笑みを浮かべる。それを見て、意外にもレナにしがみ付いて震えていた、アリスが口を開いた。
「あ、あれ、お父さんの剣」
「え?アリスのお父さんの剣なの?」レナは驚いて、聞き返した。
「うん」
アリスはレナに返事だけして、シーユーに話し掛ける。
「ねぇ、それ、お父さんの大切な剣なの!お願い!返して!」
「むむむ、娘。こ、この剣、お前の父親が造った、も、物か?たいした父、父親だな……。こ、こ、これ程の物、滅多にお目に掛かれない……。だ、だが!剣とは本来、人を斬る為のも、物……。み、店の飾りにしておくより、お、俺の様な一、一流の剣士が持った方が、この剣も、しあ、幸せ……。ククク、クキャ」シーユーがおよそ人間のものとは思えない笑い声を上げ、剣に頬ずりをしだした。
「で、でも!お父さんのなんだもん!」アリスが半べそを掻きながら、必死に訴える。
「クケ。ガ、ガキには、り、理解は無理か?だ、だが大丈夫、こ、この男がバラバラになれば、り、理解できる」
そう言って、シーユーがカルナに切先を向けてくる。そして、剣先を向けられたカルナに、シルバーが話し掛けてくる。
「ガハハハハ、お前も、ついてない男だな。この俺様の一番の弟分シーユーは、その首に五十万ゴールドもの大金が掛けられている程の剣の達人だ。お前の様な、何処の馬の骨ともわからん若造など一瞬で五体バラバラよぉ」
五十万ゴールド?レナはその金額の高さに驚いてしまった。そして、カルナに声を掛ける。
「カ、カルナ。私も魔法で戦うわ!」
焦り交じりで出た、そんなレナの提案も、カルナの次の一言で却下される。
「問題ない……。アリスの側にいてやれ」
「で、でも……」カルナに、そう言われてもレナは不安が拭い切れない。
この二人の会話にシーユーが口を挟む。
「クケクケ。も、問題無い?。お、面白い……。なら、ならば、その実力、み、見せ、見せてみろ。お、女。お前は、い、言う通り、後ろに下がっていろ……。さ、さあ、剣を抜け、い、一瞬で、バラバ……、バラバラにして、や、やる」
そして、シーユーが剣を構える。それを見て、カルナが刀に手を掛ける。すると、その瞬間。シーユーがカルナに襲い掛かる。
疾い!後ろで見ていた、レナがそう思った時にはすでに、シーユーはカルナの懐に入っていた。そして、そのまま、刀を抜いていないカルナに斬り掛かる。その疾風のごときシーユーの襲撃を、さらに上を行くスピードでカルナが躱しきる。そして、お互い後ろへ飛び間合いを計る。
「ほ、ほう……。す、全て躱した?。お、おおお、おもしろい」
シーユーが感心したと言わんばかりに、独り言を零す。その様子を子分達全員が生唾を飲み込み見守る。そんな中シルバーが、カルナに向かって怒り混じりに叫ぶ。
「クソォー!てめぇ!よくも、シーユーをぉぉ!」そして、そのスキンヘッドにまたしても、無数の血管が浮き上がる。
「やっぱり、そうだったのね……」
そのシルバーが激昂する姿を見てレナは、自分の目が正しいかった事を確心する。さっき、シーユーがカルナに斬り付けたのは計五回だった。しかし、それとは別に一つの閃光がレナには見えたのだ。シーユーが普通に立っているので気のせいかと思ったが、シルバーの態度でレナは改めて、自分の見たものを確信できた。そして、何よりカルナの刀が、いつの間にか抜かれているのだ。
「ねぇ、レナさん。どうなったの?カルナさん大丈夫?」アリスが不安そうに、レナに話し掛ける。
「ええ。大丈夫よ。カルナは本当に凄く強かったみたい……」
そうアリスに答えてレナは、掌をアリスの額に当てる。すると、フッとアリスが膝から崩れ落ちる。それをサッと抱きとめて、レナはアリスをそのまま地面に横たわらせた。
「ごめんね、アリス。暫く眠っていてね。とても、アリスには見せられないから……」
そのレナと、シルバーの様子の意味が分からずシーユーが叫ぶ。
「お、おい。おおお、女。い、一体何をしている?あ、兄者も、な、何事?し、心配、い、いらない。つ、次は本気で……」
そう言いながら、シーユーがシルバーの方に振り返る。すると、ゆっくりとシーユーの首に赤い亀裂が浮かび上がる。
「ま……、まさ……か?お、おお、俺、や、殺られ……?」
その最後の言葉を吐き、シーユーの首がゴロンと地面に転がり落ちる。その拍子に、さっきまでは髪の毛で見えなかった、頬のこけた真っ白な顔が姿を現す。そして、残された胴からは、真っ赤な血が勢い良く吹き上がる。
それを見た瞬間レナは、口を押さえ、思わず目を背ける。そして、ふと赤髪の男の言っていた“血の噴水”という言葉を思い出した。
シーユーの体は、そのまま仰向けに倒れていく。そして、その後ろにいた子分達の体に血の雨が降りかかる。しかし、子分達はあまりのショックの大きさに血を浴びても微動だにしない。そして、呆然とシーユーの首を見つめている。そんな子分達に、シルバーが渇を入れる。
「何をぼさっとしてやがる!お前ら!確かにシーユーは負けた……、だが!この俺様まで負けると思うのか?」
「い、いえ、思いません」子分達が、一斉に背筋を張る。
「なら、さっさと俺様の獲物を持ってきやがれ」
「はっ、はい!」
そして、子分達は馬車の荷台へと向かう。すると、荷台から子分四人、全員掛りでシルバーの体格と同等の巨大な斧を担いできた。それを、シルバーが片手で受け取る。
「よし。お前らはシーユーの体を持って先にアジトに帰って弔いの用意をしてろ」
「へ、へい!」そう返事を返して、すばやくシーユーの頭と体を馬車の荷台へと運び入れる。
「そ、それじゃあ、兄貴。後は、お願いしやす」
「おうよ。それから、おめぇら。女は又、当分お預けだ。シーユーの弔いだ、女も殺す」
「分かりやした」そう答えて、子分達は馬車を走らせ森の奥へと消えて行った。
「と言うわけで、てめぇら皆殺しだ!まずは、男ォ!てめぇからだ!」
そう言って、シルバーは斧を真横に一振りする。ブォンという風切り音と共に、レナの所まで風圧が届く。
「カ、カルナ。気をつけて」レナがその風圧に驚き。カルナに注意を促す。
「問題ない……」カルナはまた、抑揚の無い声で、その一言だけを返す。
それを聞いてシルバーがキレる。
「フン。問題無いだぁ?調子に乗るなよ若造。シーユーを倒したぐらいでなぁ。言っとくが当然俺様は、シーユーよりも強い。何せ、俺の首に掛かった賞金は二百万ゴールドだからなぁ」
「え!?」
その金額の高さに、レナは又しても、驚きの声を上げる。二百万ゴールドといえば、家が建てられる程の金額だ。さすがに心配になり、レナは又カルナに声を掛ける。
「ほ、本当に大丈夫?カルナ?」
「ああ」
「でも……」
「問題無い」
カルナにこうまで言われては、レナはどうする事も出来ない。しかし、レナは思った。さっきのシーユーの剣筋はレナにも、はっきり見えた。それなのに五十万ゴールドもの賞金が掛かっていた。案外、大した事無いのかもしれない。カルナを信じよう。そうレナは決意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます