遭遇④

声の方に更に近づいてみると、驚いた事に、その場所は周りの薄暗さが嘘のように太陽の光が差し込んでいて、とても明るい。そう、その一帯だけは木が一本も生えていないのである。そこは、木が生えていないどころか、草も疎らで所々地面から岩が露出している。そして、その場所のほぼ中央辺りに腰を下ろして談笑している集団がいる。数は男が五人。その横には、荷物をたくさん積んだ荷馬車がある。その男達の様子を確認しながら、レナ、カルナ、アリスの三人は声を殺して男たちの会話に聞き耳を立てる。

「それにしても、シルバーの兄貴、本当についていましたねぇ」

「ああ。全くよ。何の苦も無くこれだけの物が手に入ったんだからなぁ」

そう言って、シルバーと呼ばれた、恐らく二メートルは越えるであろう、集団の中で一際大きなスキンヘッドの男が、荷馬車を見上げ大笑いしている。間違いなく、この男がリーダーだろう。そして、また別の子分らしき男が口を開く。

「やっぱ、サラニカの町をあんな状態にしたのって、例の赤髪の男っすかね?」

「ああん?赤髪の男~?あんなのデマに決まってんだろ」

「そ、そうっすよねぇ」少しビビった様子で子分の男が答える。

「当たり前だ。間違いなく複数の人間の仕業だ。でなきゃ、ああまで人間をバラバラにゃ出来ねぇ。恐らく一人は魔法を使う奴がいるな」

「さすが兄貴。頭が冴えやすね。」

「ガハハッ。そうだろう、そうだろう」シルバーと呼ばれた男は子分の言葉に何度も頷き上機嫌だ。

「何にしても、これで当分、金には困りやせんね」と、ニヒヒ、と子分が笑みを零す。

「おうよ。折角、あの洞窟を塒にして、行商相手に通行料をせしめる予定が、この半年、誰も通りやがらねえ」

「まぁ、グランドマインがあれじゃあ仕方ないっすよ」

この子分の言葉には、別の子分が返した。

「ああ、あれは悲惨だな。あれなら、いっそ滅ぼされた方がマシかもな」

「いや、でも実際はミンチにされて滅ぼされるのも悲惨だけどな」

この子分の言葉に、他の男達が一斉に笑う。

「だがまあ、そのおかげで軍資金は手に入った。これで、西の大陸ともおさらばよ」

「やっと、あの暗い洞窟暮らしが終わるわけっすね」子分が涙を浮かべ、鼻を啜る。

「おうよ。辛い思いさせたな、お前達。俺達、風蜥蜴がこんな思いをさせられたのも、すべてあの、ウイン=クルリエルのせいだ」シルバーは拳を目の前で握り締める。

「それにしても、そのウイン=クルリエルってそんなに強いんっすか?」

「バカ野郎!強えなんてもんじゃねぇ。恐らく、俺とゴールデンの大兄ぃの二人がかりでも勝てねぇだろう」

「そ、そんなにっすか?」

「ああ。そんな化け物みたいのが何で、この大陸で賞金首ハンターなんてやってやがるんだ。しかも、うちらをターゲットにしやがって。クソが」そう言って、シルバーは握り締めて拳を地面を叩きつける。


どうやら、彼らの話をまとめると、賞金首の彼らを狙う強いハンターがいて、そのハンターから身を隠しつつ、更に逃げる為の資金を稼ぐ目的で、この先の洞窟を塒にしているようだ。しかし、何らかの理由でグランドマインから人が来ない為、逆方向のサラニカの町に行ったら丁度、赤髪の男に滅ぼされた直後だった。そして、いわゆる火事場泥棒をしてきた帰りに、ここで休んでいたと言うわけだ。

この風蜥蜴の会話を聞いてレナは、一つ気に掛かった。それは、町からここまで一本道だった。それなのに、あの男達は赤髪の男に会わなかったのだろうか?

そんな事を考えていると、「おい!そこに隠れている奴等、そろそろ出てきやがれ!」

シルバーが急にこっちに向かって大声を上げた!

「ひっ!」アリスがシルバーの大声に驚いて、声を上げてしまった。

「見つかった?どうしよう?カルナ」

レナも動揺を顕にして、カルナに声を掛ける。すると、カルナが静かに口を開く。

「出よう。どの道今避けても、この先の奴等の塒で出会う事になる」

「そ、そうね。戦闘になってもあの人数なら何とかなるかも……」

「た、戦うの?」アリスが、不安そうにレナにしがみ付く。

「うん。出来れば、戦闘は避けたいけど。大丈夫、アリスは私が守ってあげるから」

「ほ、本当に?絶対だよ」アリスはそう言って、さらに強くレナにしがみ付く。

そんな二人に、お構い無しにカルナが先頭を切って出て行く。意を決し、レナとアリスも後に続いて出る。


「ハン。やっと出てきやがったか……。ん?二人かと思ったが三人いやがったか。どうやら、久しく戦闘から離れて勘が鈍ったか?」

このシルバーのセリフを耳にして、レナは思った。恐らくカルナだけは完全に気配を殺せていたのだろう。レナも気配を殺す術は身に付けていたつもりだった。しかし、このシルバーと言う男には通用しなかった。自分の修行不足か?それともこの男が凄いのか?どちらにしても油断は出来ない。レナがそう思い、身構えていると。それまで座っていた風蜥蜴達が、一斉に立ち上がり騒ぎ出した。

「うっひょう。兄貴。女がいますぜ。しかも、かなりの上玉ですぜ」

「ああ。あれほどの女、滅多にお目にかかれねぇぜ」そう言って、シルバーはヨダレを拭う。

「どうしやすか?兄貴―っ」

「もちろん、お持ち帰りよ」

「ヘイ!わっかりやした!」そう子分達が返事して、その内の一人がレナに話し掛けてきた。

「おい。女ぁ!こちらに居わすのは大陸一の斧使いにして風蜥蜴のリーダー、アックス兄弟が一人、シルバー=アックス様だ。そして、そのシルバー=アックス様がお前の事をご所望だ。光栄に思え」

この子分の言葉に、シルバーが明らかに不満そうに口を開く。

「おいおい、言い忘れている事があるんじゃないのかぁ?」

「は?」子分は何の事か分からない。

「バカ野郎。俺様は確かに斧の扱いは大陸一だが、棍棒の扱いは、さらにその上を行くぜ。ガハハハハハ」そう言ってシルバーは大笑いしながら、腰を前後に振っている。

それを聞いて、子分達も大笑いしながら、シルバーと同じように腰を振り出した。

このシルバーの下品な冗談は、僧侶の家で育ったレナには理解できなかった。そんなレナの様子を見て、シルバー達が更に盛り上がる。

「おいおい。今の理解してねぇぜ。こいつぁ、かなりのお嬢さんの様だぜ」

「へへ。兄貴ィ、こいつぁ、かなり調教のしがいがありやすねぇ」子分達の動きはまるで、蜥蜴と言うより猿の様だ。

「おうよ。半年以上も女と縁が無かったからなぁ。俺様が十分堪能した後、お前達にも味あわせてやるからな」

ここまで言われて、さすがにレナも意味を理解する。そして、少し俯き顔を赤らめる。そして、そのレナの反応を見てシルバーたちは、又しても盛り上がる。

「やっと意味を理解したようだな?本当にウブな女だぜ」そう言って、シルバーはこれ以上無いといったイヤラシイ笑みを浮かべる。

それを見て、レナは背筋が凍った。

「あ、兄貴ィ」子分の一人が、これもまたイヤラシイ笑みを浮かべながら口を開いた。

「ん~?何だ?弟よ」

「あの後ろにいる女も喰っちまっても、良いんですかえ」

この子分のセリフには、レナは耳を疑ってしまった。アリスの様な小さな子に欲情するなんて。信じられない!アリスは、すっかり怯えてレナに力一杯しがみ付きながら震えている。

「バカ野郎!あんな小さなガキに手を出してみろ。ゴールデンの大兄ぃに殺されっぞ!」と言って、シルバーが子分を叱りつけた。

これを見て、レナは少し感心した。どうやら、大兄ィと呼ばれているゴールデンとやらだけは多少の良識があるようだ。しかし、その感心も一瞬で崩れ去る。

「あのガキを良くて見てみろ。モロにゴールデンの大兄ィのタイプじゃねぇか。あれは、連れ帰って大兄ィへの土産だ」そう言って、シルバーは子分の頭を小突いた。

「へ、へへへ、そうですよねぇ」子分が頭を抑えながら明らかに残念そうに、そう返事した。

類は友を呼ぶと言うが良くもまぁ、これだけの変態が揃ったものだ。レナは呆れてしまった。しかし、呆れてばかりもいられない。レナ達は、一刻も早く先へ進まなければならない。そう思い、何とか先に通してもらえる様に交渉しようと、一歩前に出た瞬間、カルナがレナを制した。

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