異変④

レナは赤髪の男と出会った時の事を思い出し、やはり他に意図があるのかと考える。

「レナ・・・レナ!」

カルナに呼ばれてレナはふと我に帰る。そう言えば、生存者の女性をほったらかしにしていた。

「ごめんなさい、カルナ。なっ、何?」そう返事しながら、忘れていた女性の前に膝をつき様子を窺う。

「レナ・・・あれを見ろ」カルナが何かを指差す。

「えっ?」

レナはカルナが指差す方向に目をやる。すると、そこには槍を持った騎士を象ったオブジェがあった。そして、その槍の先に、頭と右足が付け根から無くなっている死体が突き刺さっている。レナは思わず目を背ける。

「あ、あれがどうかしたの?」

カルナの意図が分からずレナが聞き返す。

「よく見てみろレナ」

カルナはそう言うが、そう言われて、じっくり見られるものではない。

「一体どうしたの?」結局、直視できず。カルナに聞いてみる。

「血が流れている」

「えっ?」

レナは理解できなかった。今更何を・・・。この町に入ってから嫌でも血を見てきた。

「どういうこと?」分けが分からず、レナはさらにカルナに質問する。

「あの死体からまだ直接血が流れ出ている。つまり・・・」

「そうか!」

カルナが喋りきる前に気付き、レナは思わず叫んでしまった。

「そうだわ!今まで、私達が村や町にたどり着いた時には、すでに、死体の血は渇いていた。でも、今回は、まだ流れ出ている。という事は、赤髪の男がこの町を滅ぼして、まだそんなに時間が経ってないって事だわ!」

レナはまるで自分で気付いたかのように興奮し、思わず拳を小さく握る。

ついに・・・ついに、追いつけるかもしれない。すぐに追い掛ければ、次の町を滅ぼされる前に追い付けるかも・・・。いいえ、追い付いて見せる!レナは決心し、気が逸る。早く追わなければ!その為にはまず、何とか赤髪の男の行き先を教えてもらわなければならない。そう思い、生存者の女性の方に目を向ける・・・。すると!今まで、ずっと膝に顔を埋め震えていた女性がレナの方を見ていた。否、見ていたというより、睨んでいた。

予想外の形で女性と目が合ってしまい。レナは一瞬動揺してしまう。しかし、すぐに動揺を押さえ込み女性に話し掛けようとする。すると、急に女性が口を開く。

「あなた!さっきから私の前でゴチャゴチャと、鬱陶しいのよ!すぐに私の前から消えて頂戴!でないと・・・殺すわよ!」

おおよそ、女性の声とは思えないくらいドスの効いた声でそう言って、顔中に異常なまでの血管を浮かばせレナを、さらに睨み付けてきた。

これには、流石にレナも動揺を抑えきれない。それでも何とか言葉を返す。

「ご、ごめんなさい。わ、悪気は無かったの」

この言葉に何も返さず、女性はレナを睨み付けている。この状態を何とかしようと、レナは動揺を抑えきれないまま、さらに話し掛ける。

「わ、私はレナ=クリスティン。そして、彼はカルナ=エイモンド。私達は町をこんな状態にした男、赤髪の男を追っているの」

この言葉にも何も返さず、女性はレナを睨み続けている。それでも、レナはあえて目を逸らさず話し続ける。手の平がしっとり濡れているのが分かる・・・。

「それで、あなたに赤髪の男が次に何処に言ったか教えてほしいの。そして私達と一緒に町を出ましょう。いずれ町にはモンスターが現れて危険な状態になるわ。だから、お願い・・・」

レナが何とか全部言い終えると、女性がやっと口を開く。

「知らないわよ!」

しかし、ドスの効いた声で返ってきたのは、予想もしてないその一言だけだった。

「えっ?」レナは、一瞬どういう意味か分からなかった。

「だから、知らないって言ったのよ!あなた耳悪いの?いちいちムカツクわね、あなたの態度!」

「ご、ごめんなさい。ちゃんと聞こえていたわ。ただ、どういう意味か分からなかったから・・・」

動揺するレナを見て、女性はニヤリと笑みを浮かべる。

「フン!あなた。耳じゃなくて、どうやら頭が悪かったのね。あの男が何処に言ったかなんて、私は知らないって言う意味よ!」そう言って、女性はニヤリと笑みを浮べた。

「そ、そんな、嘘でしょ・・・」

レナのこの言葉で女性のいやらしい笑みが消え、代わりに濃い青筋が現れる。

「失礼な女ね!何で私がわざわざそんな嘘を付かなきゃならないのよ!本当、ムカツク女ね、殺されたいの?」

「ご、ごめんなさい。でも、今までこんな事無かったの。あの男は必ず生存者に、次の行き先を教えていたから・・・」動揺でレナの目が泳ぎだす。

「そんなの、私の知ったことじゃないわ!」

「そ、そうね。ごめんなさい。どういう事だと思う?カルナ」

自分ではどうしようも出来なくなると、レナはついカルナに頼って聞いてしまう。

「さぁな。本当にこの女は、赤髪の男に遇ったのか?」

カルナは冷静にその疑問を口にした。

「そ、そうか!私の時と同じパターンだったのかも」

それ以外考えられない。レナは女性に向き直る。すると・・・。

「フン!ムカツク女にはムカツク男が寄って来るものなのね。私はちゃんと、あの赤い髪の男に遇ったわ!本当、ムカツクわね。二人とも殺すわよ!」

そう言って、今度はレナとカルナを交互に睨みつける。

「ほ、本当に遇ったの?」

レナはどうしても信じられず、いや、正確には信じたくない!その思いで、もう一度聞き返してしまう。すると、レナの期待に反して女性が怒り出す。

「遇ったって言ってるでしょ!何処まで頭が悪いの!あの男を追う前に、一度医者に行った方が良いんじゃない!」

「じゃあ、何故赤髪の男はあなたを殺さなかったのかしら?」

疑問に思ったことを、動揺しているとはいえ、うっかり口に出してしまった。

「何?あなた、私が殺されていて欲しかったの?」

怒り狂ってくるかと思ったが予想外に、信じられない、呆れたといった感じで溜息を付きながら首を横に振っている。

「ごめんなさい。決してそんな分けじゃないの。ただ・・・あの男の意図が解らなくて」レナは、自分の失言に後悔し必死で謝る。

「フン!私もあの男に殺されると思ったわ。周りの人間がバラバラになっていく中で、あの男と目が合ったわ・・・。すると、私を見ながらニヤリと笑って、私以外の人間をバラバラにして何処かへ行ったわ」

「目が合ったの?」

「そうよ!本当にあなたは頭が悪いわね。顔も見たわ。血に染まって、はっきりは判らなかったけどね」

「か、顔を・・・?」

信じられない!今まであの男は自分の正体をバラす様な事はなかった。今までの生存者に対しても、まず血で目を塞いで次の行き先を告げていた。レナも顔だけは見ていない。赤髪の男にとって、この女性は何か特別だったのか?そんな事を考えていると・・・。

「フン!また考え事?あなた、人と話している途中で、よく一人で考え事をし始めるわね。さぞレベルの低い家庭で育ったんでしょうね」と、女性が思いっきり皮肉を口にする。しかし、その言葉はレナの耳には入らない。必死に赤髪の男の意図を考える。

どういう事かしら?この女性が見た赤髪の男の顔の記憶を頼りに探し出せって事?他にも何か意図があるのか?取り敢えず、それ以外の事は思い浮かばない。そうやって、一人考え込んでいるレナを見て、女性がまた怒り出す。

「今度は無視!?本当にムカツクわね!せっかく人が話しをしてやったのに!このボケ!あの男を追っているなら、さっさと追えばいいでしょ!いいから、もう私の目の前から消えて頂戴!でないと、本当に殺すわよ、このボケが!」

怒り狂ったその声に、流石にレナも我に帰る。

「本当にごめんなさい。つい考え事を・・・。許して・・・」と、必死に謝るレナに対し、さらに女性は捲くし立てる。

「許すか、このボケ!さっきから何度も何度もイラつかせやがって、その度にごめんなさいって!本当に悪いと思っているの?猿でも、もっと学習能力があるわ!本当に頭の悪い女だわ」女性は怒りで、まるで、爬虫類の様に目を尖らせる。

「ごめんなさい・・・」レナは深く頭を下げる。

「フン!また、ごめんなさい?もういいわ。あなたの様な頭の悪い女とこれ以上話す事は無いわ!ちょっと、後ろのあなた!」

女性がレナに目で退けと合図し、今度はカルナに話し出す。

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