11. 恋に落ちた本当の理由
私はAくんを初めて見た時から、これまでの人生の中で忘れられないある人のことが頭に浮かんでいた。
それは、私が大好きだった元彼である。
その元彼もAくん2人も、私のタイプに当てはまっており、加えて、2人には似ている点があまりにも多くあり過ぎていた。
その元彼の愛は、「支配」に似ていた。それは客観的に見たら、理不尽で不平等なものだったかもしれない。彼といることは、私の精神的にも身体的にも健全ではないと頭では分かっていても、元彼から離れることが人生の終わりのように感じて出来なかった。精神的に支配してくるところ以外は、気が合って一緒にいるだけで心から楽しくて、私は世界一幸せだと思うくらい好きだった。同じくらい、元彼も私のことが大好きで、残りの人生を共にしたいねと話し合うほどであった。
そんな元彼と、些細なところまで似ているAくん。目元の濃い顔立ちや、身体のシルエット、キャップを後ろ被りしているところ、車のハンドルを手の平で回すところ、お酒に強いところ、どこかナルシストなところ、綺麗好きなところ、かわいい動物やボクシングの動画を見ることまで。動揺してしまうほど似ているところが多かった。私が元彼に辞めてほしかった、”精神的支配をすること”だけが唯一似ていないところだった。
Aくんと話をする中で、彼の恋愛観の中には「支配」や「束縛」というものは無いことが伝わってきた。このひとり旅で出会った、Aくんは、元彼が生まれ変わって現れたのかと思うほどだった。
Aくんと海を眺めた時、過去に、元彼と東南アジアのリゾートで見た海の光景が鮮明に蘇ってきた。
自分が壊れることを避けるために、仕方なく元彼とは別れたけれど、一生一緒にいたいと思えるほど好きだったのは紛れもない事実だった。別れを選択する要因だった支配的な部分を取り除いたような人。それがまさにAくんだったのだ。A君のような人とこの先の人生で出会うことなんで、もう2度と無いだろう。そう思うと、彼を失うことがとても惜しくなった。
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