7. ひとりで過ごすより、彼と
居酒屋の中に入って、お酒を頼んだ。いつもはワインを飲むが、ここでは珍しいお酒を頼んでみた。そして左上にあった時計でしっかりと1時間後の時間を確認し、そっと胸に刻む。
Aくんの持っていた時計も財布もかなり高価なものだった。さらに、まるで周りを警戒するような視線も怪しかった。でも、私は彼に興味がない感じを出したかったので、彼について質問をするのは辞めた。その代わり、彼は私にたくさん質問をしてきた。年齢、住んでいるところ、仕事。質問攻めとはまさにこれだと思った。こんなに質問されたら、年齢や仕事など私も聞きたくなった。最初は敬語を使っていたけれど、なんだか親しみを感じてだんだんタメ口になっていた。マスクを取った顔も、やっぱり好きだったし好感を持てた。年齢は3歳上だと分かった。
そして、驚いたのは彼の仕事である。なんと、公安職であった。怪しいと思っていたのが申し訳なくなった。鍛えられた身体も、鋭い目つきもなんだか腑に落ちて、彼のことを信用できそうだと思った。
しかし、彼は嘘をついているかもしれないとも思った。旅に出る前に母に言われた、「変な男に捕まるんじゃないよ」という言葉が蘇る。なんでもすぐに信じてしまうタイプだという自覚もある。
「でも、それって嘘の可能性もあるよね」
思い切って、Aくんに言ってみた。普段は心の中の気持ちを初対面の人には言えないが、まだ出会って一時間くらいなのに、なんだか彼には思ったことを何でも言いやすかった。これは運命なのかななんて思ってしまう。
「確かにこの状況だと嘘つけるよね。信じづらいよね」
そう言って彼は保険証を見せてくれた。そこには、きちんと彼の名前と仕事が書いてあった。半分信じたけれど、それでも、私は過去の経験からこれを信じていいのかと葛藤していた。
そんな中、あっという間に1時間は経ってしまった。まるで0時を待っていたシンデレラのような気分だった。でも私は、解ける魔法なんて無いから、帰らなくて良かった。最初に1時間と言ったのは私だが、今はもうAくんに「帰る?」と聞かれたくなかった。ひとりでゲストハウスに帰るのではなくて、このまま彼といたいと思った。彼と気が合うのを感じたし、なんだかとても楽しかった。ずっと一緒にいたいと思った。
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