第177話 クラス対抗戦 集団戦第二戦
遅くなりましたがあけましておめでとうございます。
本年もできる限り更新を続けられるよう頑張りたいと思います。
応援してくださると励みになります。
何卒よろしくお願いします。
学園の訓練場の一つ。
人の手によって整備された森林フィールド。
手入れされた木々は高く、踏み締められた地面には目隠しにもなるいくつかの藪。
足場も見通しも悪い自然を模した訓練場。
小五月蝿い委員長をリーダーとしたオレたち二戦目のチームは、相手陣地の旗に向かって一直線に進んでいるところで、早速相手チームと遭遇し、森にある障害物を挟んだ魔法戦に陥っていた。
敵味方の魔法が入り乱れる。
「おらよっ! 【タービュランスボール3】!!」
クラス対抗戦第二戦。
集団戦から始まった対抗戦はオレたちアシュリークラスの面々対なよなよした教師率いるフィルディナンドクラスの戦い。
あーいや、向こうのクラスの実質的な支配者はあの頭のネジのぶっ飛んだプリエルザと張り合う女帝とかいう女だからちょっと違うな。
「【ファイアカッター・ダイブ2】!」
「【アイアンアロー】!!」
「……【ウィンドアロー】」
にしても視界を遮ってくる木や藪はうっとおしい。
木の影に隠れながらの戦闘ではこっちの魔法もあっちの魔法も当然ながら決め手に欠ける。
しかも、射線を遮る木の影から迂闊に攻め入れば集中砲火を受けるのは子供でもわかる。
いきなり戦場のど真ん中に突っ込む訳にも行かねぇのが面倒なところだ。
お互いのチームがせめぎ合い様子見をする状況。
しかし、偶然の遭遇戦とはいえ、相手と人数は同じ。
向こうは生真面目そうな火魔法使いの女と風魔法使いの男。
対してこちらは自陣の旗防衛にエリオンともう一人を置いてきたから、『防衛に徹するべきだ!!』とかいっていたくせに無理矢理ついてきたベネテッドの奴と二人きり。
恐らくアイツら二人組はオレたちの陣地への偵察と地形把握、戦術の確認を含めた先遣部隊だろう。
本隊で攻め入るための情報収集を兼ねた部隊。
なにせ圧が弱い。
積極的に攻めてくるでもなく森の木々に隠れたままで動きがない。
この遭遇はアイツらにとっても予想外だった可能性もある。
しかしなぁ……オレたちとこうして魔法戦になったのに撤退していかないのは疑問だな。
だがまあ、コイツらを早々に片付ければ状況は一気に有利になる。
……見逃す訳にはいかねぇな。
崩すならあの生真面目そうな女か?
挑発でもすれば簡単に乗ってきそうな雰囲気はある。
風魔法使いの慎重そうな男は……無理だな。
消極的な攻撃しかしてこないが、時折飛んでくる視線は鋭くこっちの動作のいちいちを監視してくる。
油断も隙もない奴だ。
「ベネテッド! あっちの火魔法使いから倒すぞ! あの女の方が弱そうだ」
「なっ……」
「ンッ、分かった。槍を携えた女子生徒の方だな!」
わざと森に響くようなデカイ声で喋ったかいがあったな。
木の影から身を乗り出してショックを受けた表情をみせる火魔法使い。
天成器はオレと同じ槍と……盾の二つ一組か。
風魔法使いの男が制止の声をあげる中、顔を真っ赤にして攻め入ろうとしてくる火魔法使い。
迎撃のためこちらもゲインを出現させ構えた瞬間だった。
相手チームのさらに後方から陰気な声が響く。
「ひっひひ、【シャドウアロー・ストリーム3】」
オレに向かって放たれた緩い回転軌道を描いて前進してくる平たい黒い矢の魔法。
盾にしていた木を躱すように弾道を調節している。
……面倒くせぇ。
影魔法に《ストリーム》の魔法因子を加えた魔法か、またマイナーな魔法因子を持ち出してきやがって。
「……っ」
不意を打ったつもりだろうがなんてことはねぇ。
既のところで木の影から飛び出し躱す。
「【シャドウバレット3】」
「チッ」
待ち構えていただろう展開速度。
遮蔽物のないところで飛んでくる影魔法の弾丸。
だが、予想してない訳ねえだろ!
「【タービュランスシールド2】」
斜めに展開した乱気流魔法の盾。
さらにゲインを盾に直撃だけ避ければいい。
渡された衝撃防護の魔導具が一度でも発動したら退場だからな。
防御は念入りにしとかねえと。
「ウルフリック・アンバーリールゥゥ。マ、マーガレット様に歯向かう敵ィィ」
「なんだコイツ……」
森の奥から姿を現したのは陰気そうな痩男。
コイツが影魔法の使い手か。
ん? あー、コイツか?
エリオンいっていた相手チームのリーダー候補。
「確か……」
「そう! ワタシこそマーガレット様の忠実なる下僕! ディヴォン・サンチェスター! ウルフリック・アンバーリールゥ、マーガレット様の道を阻むオマエにはここで退場して貰おうか!」
五月蝿え。
痩せぎすな身体の割に急に大声を出しやがって陰気野郎が。
さっきまで小声だったくせに情緒不安定かコイツは。
それにしても影魔法使いか。
右手に杖代わりに持っているのは先端が鋭く曲がった鉤棒の天成器。
しかし、見た目からしても接近戦は得意には見えねえし、明らかに魔法特化。
距離が詰めづらいこの森林フィールドでは厄介な相手になり得る。
とっとと仕留めるに限るな。
「行くぞ、ゲイン。【タービュランス――――」
「ウルフリック君! 危ない!」
「なに!?」
痩せぎす野郎を速攻で仕留めようとした矢先、横合いからベネテッドの強張った叫びが響く。
唐突に頭上から降ってくる影。
奇襲か!!
「くっ……間に合え! 【アイアンバレット】!」
影に向かって飛ぶ鉄の弾丸。
襲撃者はそれを見て空中で機動を変える。
弾丸を左手の小剣で斬り伏せ、しかし、ついでとばかりにもう片方の剣を振り下ろす。
体勢の整っていない斬撃は不意の奇襲を受けたオレでもなんとか防げた。
だが重く鋭い。
ゲインを掲げ受け止める。
襲撃者は反動で僅かに遠く、痩せぎす野郎の隣へと着地した。
……クソ、このオレが助けられるとは。
「大丈夫かい!」
心配そうな顔で駆け寄ってくるベネテッド。
「……問題ねえ」
思わず素っ気ない態度で返事をする。
どうなってる。
全然気配もしなかったぞ。
魔力察知も反応しなかった。
なにより……速い。
しかも、空中で特別速度に優れた中級射撃魔法を斬るだと。
オレだってやれと言われれば出来るかもしれねぇが、かなり難しいのは確かだ。
着地を済ませ、パタパタと制服についた土埃を払う女に話しかける痩せぎす野郎。
「ネルハトラ君……助かりましたよ。あのままウルフリック・アンバーリールと直接対決となればいくらマーガレット様の忠実なる下僕であるワタシでもすぐに敗北していたでしょうからね」
「えー、ディヴォンっちが『ワタシが囮になるので奇襲をかけて人数を減らして下さい』って言ったんじゃん。わたしその通りにしただけだよ〜」
「そんなこと言いましたっけ? 忘れてしまいました」
「も〜、何言ってるの〜」
コイツら……さっきの奇襲も策略の内かよ。
魔法特化の奴が簡単に姿を現したと思ったらまんまと罠に嵌められたってことか。
ネルハトラ。
個人戦選出メンバーの筆頭候補の一人。
フィルディナンドクラス屈指の実力者。
アイツが?
隻眼をいやに輝く装飾を施された布で隠した風貌から飛び出る口調は軽く、調子に乗った奴。
対抗戦のために全員に配られた防具の下の制服はこれでもかとばかりに自己主張の激しい綺羅びやかな装飾で飾られている。
痩せぎす野郎の淡白な言葉の数々にヘラヘラと笑って対応している女。
とてもオレに察知されない奇襲を仕掛けてきた奴と同一人物には見えない。
だが……強いな。
「……ウルフリック君、どうする。相手は四人。一気に不利になった。しかも一人は個人戦候補のネルハトラ・ジクロさん。一旦引いた方が……」
「簡単に引けると思うか? アイツらを見ろ。見逃す気はねぇみたいだぞ」
ここに四人いるということは旗の守りは一人。
偵察の先遣部隊と思っていた二人組はその実、オレたちを誘き寄せるための撒き餌だったって訳だ。
指揮を取っているのはあの痩せぎす野郎だろう。
言動から何まで変な野郎だと思ったが……甘くみたのはこっちだったか。
「フフフ、わかってしまうかな。だが、先程のネルハトラ君の奇襲を防ぐとはやはり君も相当な実力者。……ここで落としておかないと後々不利になるのはワタシたちだろう。逃しはしないよ」
痩せぎす野郎の長い前髪に隠れた瞳が鋭くこちらを射抜く。
……だが、こっちもただベネテッドと二人で真っ直ぐに旗を目指してきた訳じゃない。
「ん〜?」
突如痩せぎす野郎の背後からカキンっと金属同士のぶつかり合う音。
「!?」
「あ〜、ごめんにゃ〜。折角のチャンスだったのに。失敗したにゃ〜!」
「ミケランジェ君の弾丸をあんなに簡単に……」
一連の動きに驚愕を隠せないベネテッド。
ミケランジェの狙いは悪くなかった。
向こうがネルハトラをいざという時のための奇襲要員としていたように、こっちもミケランジェを遊撃要員として自由に動かせていた。
リーダーであるベネテッドの指示がなくとも自己判断で動くように事前に言い含め、その結果が指揮を取る要でもある痩せぎす野郎の暗殺だったのだろう。
だが、失敗した。
「ネ、ネルハトラ君。何度もすまない。助かったよ」
「別にいいよ〜。ディヴォンっちがいなくなるとみんなの指揮を取れる人がいなくなっちゃうからね〜」
何気なく自然に弾丸を防いだ。
……いま視線はこっちに向いたままだったよな。
背後からの弾丸を見もせずに防ぐとか本気かよ。
「それより、一人増えちゃったよ。どうする?」
「……ミケランジェ・カイル。銃の天成器を持つ彼女もまたアシュリークラスの実力者の一人。……そうですね。アイザック君、彼女のお相手をお願いします。決して無理はしないように。倒そうと思わなくて結構、時間稼ぎをお願いします」
風魔法使いの男がアイザックか。
だが、どことなく不安そうな表情を浮かべて痩せぎす野郎に抗議しようとして……諦めた。
まあ、あれほど慎重な奴ならミケランジェが巫山戯た言動の割に中々ヤル女だってわかるだろうからな。
荷が重いと感じたんだろう。
反論はできなかったみたいだが。
「リリーアンナ君はあちらチームのリーダーだろうベネテッド・アンクロクライスを。ワタシとネルハトラ君でウルフリック・アンバーリールを仕留めますのでそちらも時間を――――」
「えー、わたしウルフリックくんと一人で戦いたいな」
「な、なんですって?」
「ウルフリックくん。ううん、野性味溢れてるから……ワイルドくん! ワイルドくんと戦うならさ、悪いんだけどディヴォンっちじゃ相手にならないかな。わたし一人で戦った方がいい勝負ができるかも」
眼帯女の突拍子もない提案に戸惑う痩せぎす野郎。
逡巡の時間は一瞬だった。
すぐに作戦を練り直したのか痩せぎす野郎は仕方ないなと首を振る。
「なるほど……貴女がそういうなら。ワタシでは足手纏いなのでしょう。ウルフリック・アンバーリールの相手は貴女に一任します」
「マジ? いいの?」
「……マーガレット様のクラスで一二を争う実力者の貴女の言う事は信用におけますからね。ただ、集団戦の一戦目に勝利したとはいえ油断は禁物。くれぐれも気をつけて下さい。……貴女には余計な心配でしょうけどね」
集団戦の一戦目か……。
確かにマルヴィラをリーダーとした一チーム目は敗北した。
……初戦だが、五人の内一人を欠けた状態での戦い。
アシュリークラスは十六人。
計三戦行う集団戦には一人余るが補欠は認められていない。
それにそもそも体調不良だとしてもメンバーの交代はできないルールだ。
故にこその四人のままでの戦い。
……あのお気楽女は全力で戦った。
デブい体型の割に動きの素早いベーコン。
白い虎の無口な獣人、表には出さないが相当な怪力の持ち主ラッグマー。
二人の接近戦の得意なメンバーに加え、無表情なアイツの妹の四人。
だが人数の差は大きかった。
向こうのクラスが全力で初戦を取りにきたのも裏目にでた。
自陣を中心に防衛戦を敷くものの、最後は押し込まれ旗を破壊された。
いつも嫌なぐらい明るいあの女が泣き顔を見られまいと顔を伏せた。
……何やってやがるんだアイツは。
なんで来なかった。
クラス対抗戦という大一番にクライ・ペンテシアは姿を見せなかった。
理由は知らねぇ。
だが、アイツが戦いから逃げ出す腰抜け野郎じゃないことをオレは知ってる。
……クソッ。
「ねぇ、ワイルドくんはさ。本当はもっともっ〜と強いよね。わたしと模擬戦でいい勝負してくれるのってマーガレットとクールくんだけでさ。あ、クールくんはオーニットくんのことだよ。マーガレットのクラスで唯一の魔人の男の子。いっつもはぐらかされて逃げられちゃうけど、すっごく強いんだー。ああ、話がそれちゃったね。というわけで丁度戦いがいのある相手が欲しかったんだぁ。……ちょっと遊び相手になってくれる?」
オレの内心に関係なく挑発的に笑いかけてくる眼帯女。
両手には大きさの異なる二振りの片刃剣。
攻めようにも隙がない。
だが……。
「ペラペラとよく回る口だな。――――御託はいい、掛かってこい」
「へへ、ありがとー。すぐに決着がついたらつまらないから、なるべく粘ってね?」
舐めた奴だ。
だがここで負ける訳にはいかない。
クラスの連中のためって訳じゃない……しかし、アイツらの喜ぶ顔を見るのもムカつく。
吠え面をかかせてやらないと気がすまねぇ。
ネルハトラ・ジクロ。
お前が格上だろうと関係ねぇ。
悪いが八つ当たりの相手になってもらうぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます