第175話 クラス対抗戦 ルール
「まずは皆さんに謝罪を。選出を決める方法を考えるまで時間がかかりました」
気落ちした様子のアシュリー先生なんて初めて見た。
朝の連絡事項を伝える時間。
クラスの面々が見守る中、真剣な面持ちで謝るアシュリー先生。
「アシュリーにゃ先生のせいじゃないにゃ! そんなに落ち込まないで欲しいにゃ!」
「そうです! アシュリー先生に落ち度などありません。決めきれなかったのは……僕たちにも問題がありますから」
「? なんですかベネテッドさん。ワタクシの顔に何かついていますの?」
「……いや、プリエルザ君が個人戦の代表になるだけでなく集団戦のリーダーもやりたいと言い出すから拗れた一面もある訳なんだが……自覚はないのか?」
「はぁ……?」
クラス委員長のベネテッドの疑問にも小首をかしげよくわかっていないという反応を返すプリエルザ。
(レリウスも手を焼いていたがプリエルザはアシュリーも悩ませる存在だな。勿論コイツだけが悪いわけじゃないんだが)
「あーあ、プリエルザが引っ掻き回さなきゃ代表なんてすぐ決まってたのによぉ」
「なんですの、ウルフリックさんまで! 貴方だって集団戦に出場するなら『誰かの下につくなんてまっぴらゴメンだ』ってゴネていたではありませんか! 自分だけを棚上げしないで下さいまし!」
「なんだと! この女……」
「まあまあ、二人共、落ち着いて……」
余計な口出しをしたウルフリックにまで飛び火した騒動をなんとか治めようと間に入るセロ。
それを皮切りになぜか紛糾していく教室内。
アシュリー先生に対する励ましの声に加えて代表は誰にするかでまた声が飛び交い一層騒がしくなる。
「静粛に」
教壇から響く冷たい声。
しかし、静かになった生徒たちを見るアシュリー先生の眼差しは冷徹なだけではなかった。
どこか変わらないものを見て安心するような安堵の含まれた瞳。
「コホンッ、それでは直近に迫ったクラス対抗戦ですが……選出について決めたいと思います。まずはルールのおさらいですね」
軽く咳払いで誤魔化したアシュリー先生の一言で始まった代表選出。
前提のルールを確認していく。
クラス対抗戦とは集団戦三戦と個人戦三戦、計六戦行い勝敗を分ける戦いだ。
それでいて一つのクラス内で集団戦、個人戦含めてどちらかには必ず参加しないといけない。
三つのクラスが総当りで戦い、累計の勝利数により最も優秀なクラスが決まる。
最終的に勝利数が同数の場合は新たに代表を一人選出し決着をつけることになる。
学園の同学年のクラスの間で行われ、課外授業と並んで学園の一大行事として大きな注目が集まる。
特に一学年では他クラスとの交流が少ないため、同じクラス以外の生徒の実力を直に観戦できる貴重な機会でもある。
「では集団戦のルールから」
集団戦は五対五の旗取り合戦の様相を呈している。
それぞれの陣地に配置された旗を相手に倒されないように守りつつ、相手陣地の旗を破壊する戦い。
当然戦いに赴く者には同じ班同士の連携力が求められ、旗を守る者、旗を倒す者、相手を撹乱する者など分担した役割を全うする力、刻一刻と変化する状況に臨機応変に対応する柔軟性も必要になる。
対して個人戦はシンプルだ。
クラス内での一個人としての実力の高さが試される一対一の代表での戦い。
唯一の懸念は怪我の問題。
集団戦、個人戦ともに怪我をする可能性は高い。
神妙な面持ちでアシュリー先生がその点について詳しく説明してくれる。
「クラス対抗戦では出場する皆さんに王国から特別に借り受けた専用の魔導具を装着していただきます。また後で時間を取ってレクチャーしますが使用方法は必ず熟知して戦いに望んで下さい。……この魔導具の扱いは慎重に行うことです。怠って無用な怪我をする者は私のクラスにはいない……そう信じていますよ」
対抗戦では天成器と闘技、魔法と相手を負傷させる可能性のある攻撃も可能だ。
当然リスクは高いがそこは王国最大の教育機関。
会場脇には複数の上級回復魔法の使い手が常に待機し、なにより怪我を未然に防ぐために対抗戦に参加する生徒全員に魔導具が貸しだされる。
衝撃防護の魔導具。
貴重な空間属性の魔石と風属性の魔石を核として作成されたこの魔導具は、装着した者の周囲に薄い空気の膜を貼り、ある程度までの衝撃を防いでくれる。
非常に便利で冒険者にも必須の魔導具に思えるが当然万能な物ではない。
まずもって作成するには品質の良い魔石が必要であり、最低でも二度クラスチェンジした魔物の魔石と素材を使用しなければならない。
それでいて高い魔導具作成の技術が要求されるかなり高価な魔導具。
それこそ国家ならともかくランク上位の冒険者でも所持している者はほんの一握りしかいないだろう。
そもそも魔石は天成器の強化にも使うため流通数自体少ない。
品質の良い物なら尚更だ。
魔導具が貴重かつ高価になるのは仕方がない側面がある。
そんな有用かつ貴重な魔導具だが、衝撃を防げるのはあくまである程度まで、しかも短時間のみである一定を超えた攻撃は防ぎ切れず、その防護も一度しか働かないという欠点もある。
さらに一度防護が発動すると衝撃の度合いによっては魔導具本体が破損する可能性もあり再利用が難しい。
要するにある一定までの攻撃を一度だけ防御できる非常に高価かつ使い道の限定された魔導具という訳だ。
そして、それに加えて制服の上からでも着用できる特別に誂えた防具を着込むことで致命的な怪我を避けるというのが学園の安全対策となる。
特に貸しだされる魔導具についてはアシュリー先生の期待を裏切らないためにも使用方法をしっかりと覚えておくべきだろう。
ルールの説明が終われば次は対戦相手。
これは事前に学園から組み合わせが発表されている。
「初戦の相手はフィルディナンドクラスです。これは事前に決まっていた事なので学園の一部ではすでに噂になっていましたね」
以前エリオンに詳しく教えてもらったマーガレットさん率いるフィルディナンドクラス。
しかし、俺たちアシュリークラスの対戦相手となるのはニつのクラスだ。
女帝マーガレット率いるフィルディナンドクラスと……もう一つ。
――――リリアンクラス。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます