第135話 交流と謝罪
「オウ、リーダーのデレクだ! よろしくな!」
「えーと、わたしはムータ、武闘家系統のクラスよ」
「エディオットだ。……よろしく」
三者三様に挨拶してくれる偶然出会ったラウルイリナの元パーティーメンバー〈黄金の風〉の冒険者たち
元気よく常にハイテンション気味なデレク、登場からデレクを叩いている場面を目撃してしまったムータ、どこか影のあるエディオット。
デレクに突然出会ったときラウルイリナは困った様子だった。
でも確か謝罪にいったときには応援されたとかいっていたような……果たしてどうなるのか。
「エディーは回復魔法の使える治癒士系統のクラスなんだぜ!」
自慢げにエディオットを愛称で呼び名ながら紹介してくれるデレク。
治癒士か……八つのクラスの中でもクラスを取得したときから回復魔法を使えるクラス。
「ええ、エディーはスゴイわよ」
「回復だけじゃなくて接近戦も索敵も囮も、料理や洗濯、何だったらパーティーの貯金の管理までなんでもできるからな!!」
デレクの発言とウンウンと頷くムータにこのパーティーの闇を垣間見た気がした。
「あ、ああ」
「その……彼らは幼馴染み三人で組んだパーティーなんだそうだ。そのせいかエディオットはこのパーティーでは常に頼られていて、本人も断らないから……彼だけ負担が少しばかり多いんだ」
ラウルイリナがこっそりと教えてくれたけど……苦労してるんだなエディオットは。
「は、はは……」
乾いた笑みが痛々しい。
「それで? アンタがラウルイリナの新しい仲間かぁ。オレたちのパーティーから突然抜けちまった時は心配したんだが、無事にラウルイリナにも仲間ができたんだな! 良かったぜ!」
「?」
確かラウルイリナはパーティーを追いだされたといっていたような。
「デレクは良くも悪くも能天気で細かいことを気にしないんだ。それに……彼の中では私は突然パーティーを抜けたことになっているんだ」
デレク本人はラウルイリナに確執はなさそうだ。
一方なぜか気まずそうな雰囲気を醸しだしていたムータが一息吐き出すとラウルイリナに話しかけている。
「ラウルイリナに新しい仲間ができたのは良かったわ。前にわたしたちのところに来てくれた時にも軽く聞いてたし。で? コイツがあんたの……コレ、なの?」
「うっ……ぁ……そ、それはだな」
コレ?
なんのことだ?
(クライも罪作りだな)
ムータの質問に一瞬の内に白い肌を真っ赤にするラウルイリナ。
「それにしても、応援するとは言ったけど……年下とは聞いてないわよ。やるわね」
「ム、ムータ」
「?」
そのあともムータの怒涛の質問攻めに困った様子のラウルイリナだったが、彼女は声を潜めつつも律儀に答えているようだった。
そんな二人の会話には入れないものの、デレクはひたすら頷いて相槌を打っている。
「……ムータはラウルイリナに嫉妬してたんだ。彼女はデレクに惹かれていたから、自分より美人なラウルイリナにデレクが取られてしまうんじゃないかと危惧していた。……俺はムータも十分魅力的だと思うんだが、彼女は女らしさのない自分に自信がなかったらしい」
「……」
いつの間にか近づいてきていたエディオットがムータの心情を教えてくれる。
(嫉妬か……デレクは無神経そうだからな。無意識の内にムータを焦らせる行動を散々したんだろう。うん、わかるぞ)
(ミストレア……下手な勘繰りはよせ)
ミストレアに苦言を呈しつつもあながちその意見は間違っていないのではと思う。
いまも視線の先ではデレクが不必要にラウルイリナに近づいてムータにこっぴどく怒られている。
「俺が……ラウルイリナを〈黄金の風〉から追い出した」
「!?」
エディオットはまるで罪の告白でもしているかのように淡々と話す。
彼は冒険者ギルドにラウルイリナのことを相談したのは自分だと強調した。
リーダーであるデレクはラウルイリナの加入を快く思っていたし、天成器を使わなかったことについても気にしていなかったが、自分がラウルイリナの行動を鑑みて独断で決意したと。
ムータも最初こそラウルイリナの追放に渋っていたものの、最終的にはエディオットの意見に折れてくれて、デレクには詳細は伏せたままラウルイリナを追いだしたそうだ。
エディオットはその影のある雰囲気を一層暗くさせ深く頭を下げる。
「ラウルイリナにはすでに謝罪した。だが……彼女と新たにパーティーを組むなら俺がしてしまったことをあんたにも謝りたい。ラウルイリナの言い分も禄に聞かずに彼女を追い出してしまった。俺たちでは……いや、俺では彼女を支えてあげることは出来なかった」
(エディオットは本当に苦労性だな。なにもそこまで背負い込まずともよいものを……)
「……頭をあげてくれ」
不安そうに揺れる瞳。
エディオットはその日のことを、ラウルイリナを追いだしてしまったことを悔いているようだった。
「パーティーからの追放にはラウルイリナに否があったことは知っている」
「それは……!?」
「彼女もあの頃は視野が狭く身勝手だったと反省している。……お互いにすれ違いがあったのだと俺は思うんだ。きっと時間さえあれば〈黄金の風〉の三人とも信頼し合える関係になれた。……だからそんなに気負わないでくれ」
「……」
「俺はラウルイリナの最初に加入したパーティーが君たちで良かったと思うよ。デレクもムータも……エディオット、君も追放したあとのラウルイリナの行く先を案じてくれてる。それだけで良い人たちだってわかるから」
「そう、か…………ありがとう」
やっと笑顔を見れたような気がする。
「クライ、ラウルイリナのことをよろしく頼む。パーティーから追い出した身である俺が言うのもおかしいが、彼女は必死なだけなんだ」
「ああ、わかってる。出来ればこれからもラウルイリナと仲良くしてあげて欲しい。彼女には君たちのような友人がきっと必要だから」
デレクやムータと時折困惑しながらも楽しそうに過ごすラウルイリナを見ながら、俺とエディオットは固い握手を交わした。
そのあとも同じ冒険者として情報を交換しつつ、話を続けていると、ふと神の試練の話題になる。
「そういえば、エディオットたちは神の試練には参加したのか?」
「いや、俺たちは……」
「スライム相手だろ? エディーなら軽い魔法なら使えるけどスライム相手に有効な攻撃手段はないからな。素材回収が難しいから参加しなかったんだよ。ムータだって殴りつけるしかできないし」
「わたしは! 武闘家系統のクラスだから! それでいいの! 天成器も拳武器だし!」
「あー、でもなんかスゴイお祭り騒ぎだったんだろ! 報酬もたんまりもらえたらしいし、オレたちも参加すれば良かったぜ!!」
「コイツ……」
「は、はは……」
デレクが話しだすと場が混乱するな。
ムータもまた怒りだすし、エディオットがなんとかなだめてるけどこれが毎日だと大変そうだ。
エディオットが影のある雰囲気を纏っているのも頷ける。
空気を読まないデレク。
そんな彼の不意打ちのような言葉には毎回驚かされる。
そう、次に話しだした内容に俺は思わず言葉を失った。
「で? そういやあ、お前たちは参加するのか?」
「?」
「オークションだよ! オークション!」
一人騒ぐデレク。
オークションか、王都では度々開催されるらしいけど、いままで参加したことはない。
「今回の目玉は真偽不明だけどエリクサーが出品されるって聞いたぞ! オレたちも見に行く予定なんだ! 楽しみだよな!」
「!?」
エリクサー、それは帝国の王子であるニールが原因不明の病に苦しむ母親のために追い求める万能の秘薬。
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