第3話 ステータス
「ステータスオープン」
名前 クライ・ペンテシア
年齢 14
種族 人間 level15
クラス 狩人 level14
HP:950/950
EP:120/150
STR:20
VIT:21
INT:15
MND:13
DEX:29
AGI:25
Dスキル
リーディング
スキル
体術 剣術 弓術 盾術 投擲 気配遮断 気配察知 解体術
天成器 ミストレア
基本形態 弓
階梯 第二階梯
EP︰100/100
エクストラスキル
格納 矢弾錬成 念話
慣れ親しんだ狩人の森で、今日の調子を確かめる。
狩りを始めてもう五年になる。
四年前のあの日、天成器を授かってから彼女とは常に一緒に戦ってきた。
「クライ、周囲に魔物はいないよ」
「ああ、今日はもっと森の深くまで行ってみようか。錬成に使う魔石も欲しい。狩人の森でも奥に行けばゴブリンくらいならいるだろう」
アルレインの街の西に位置する狩人の森は、狩人や冒険者が頻繁に狩りに訪れる場所だ。
森の入口付近には主に魔石を持たない動物が生息していて街の人々の日々の糧になっている。
たまにグレイウルフやゴブリン、ホーンラビットなんかの魔物が迷い出てくることもあるが、街の南にある禁忌の森と違ってよほど森の奥深くに入らなければそれほど強力な魔物は出ない。
そのため街の住人もここでレベルを上げることは多い。
「魔石は嬉しいね。けど無理は禁物だよ。森の奥深くにはオークやオーガなんかの強力な魔物も現れる。今の私たちではあの巨体に致命傷を与えるのは難しい」
「そうだな……。群れから離れたゴブリンを狙おう。途中で見掛けたら鹿も狩りたいな。父さんからマジックバックも預かって来てるし」
腰に下げたマジックバックは見た目の大きさと違って容量が大きい。
星神様が神の石版に作成方法を記したことで作れるようになった魔道具であり、外見からはわからないほど大量のものを入れられる。
中に入れた物の重量は軽減され、冒険者だけでなく商人にも人気のある魔道具だ。
ただし生きている物は入れられず、たまに中に入れた食品が腐って痛い目を見る人もいるらしい。
父さんから借りているがこれがあるだけで狩りの効率がずいぶん違う。
いずれ購入できればいいけど……サイズの大きい物は高いらしいからな。
「見つけた。ニ匹組のゴブリンがいる。相変わらず騒がしい奴らだ」
「仕留めよう」
左手の甲の黒い刻印を確かめる。
「ミストレア」
黒く描かれた刻印が徐々に光の欠片に変わり空中を漂う、左手に集まると弓の形を象った。
生成の儀式の時とは違い大きく美しく強化された天成器ミストレアは、薄暗い森の中でも綺羅びやかに輝いている。
輝きがもう少し抑えめなら、狩りの時もいつも出して置けるんだが……。
そんなことを考えながら木の影から覗き見ると、体長百二十cmほどの緑色の肌をしたゴブリンが背中を向けて歩いていた。
ゴブリンは小柄な体格で緑色の肌をした人型の魔物だ。
鼻や耳の先は細く尖り、大抵は半裸で腰にだけ布を纏っている。
商隊や冒険者を襲って物資を奪い、それをそのまま武装したり、加工して使ったりする。
また、単体では弱い魔物だが繁殖力が高くすぐ数が増え、奇襲や騙し討ちをしてくる油断ならない魔物だ。
目の前を歩くニ匹のゴブリン錆びた片手剣を持って時折振り回して騒いでいた。
隙だらけの背中に向けて弓を構える。
「矢弾錬成」
遠距離武器の形態のある天成器は矢や弾をEPを使い錬成できる。
魔石を使わない錬成矢は属性を持たないが通常の矢より威力があり、戦闘の前に錬成しておくことも出来るため使いやすいのが特徴だ。
指先に光が集まり矢が形成されていく。
背中を向けたゴブリンに錬成の光は見えないだろう。
ニ本の錬成矢を連続で撃った。
矢は真っ直ぐ吸い込まれるように心臓を射抜きゴブリン共を仕留める。
「ニ匹同時とは幸先がいいな。魔石と討伐証を取って次に行こう。周囲の警戒は私に任せろ」
ミストレアは天成器から全周囲を視認することができ、そのうえ索敵範囲は五十mもある。
この索敵範囲とは視界とは別に範囲の中の生物が判別できる特殊な力だ。
いままで何度も死角から接近する魔物を察知して助けてもらった。
すっかり慣れた手付きで討伐証の左耳を解体用のナイフで削ぎ、胸の中心付近を切り開き魔石を取る。
それぞれ専用の麻袋に入れた。
討伐証は街の解体所に渡せば換金してくれる。
冒険者ギルドでも常時討伐依頼が出ているからか報酬は少ない。
「クライ、何か争っているような声が聞こえるな。声からしてゴブリンだろうか? 私の索敵範囲の外だ。様子を見に行って見るか?」
「そうだな。誰かが襲われているなら援護ぐらいはできる。気づかれないよう静かに近づこう」
「ナクク! 右のゴブリンは俺が倒す。左のニ匹を抑えてくれ!」
閑散とした森に少年の声が響く。
狩人の森でも少し奥に入りこんだ場所では、片刃の剣をゴブリンに振りかぶる少年と、盾を構えゴブリンの槍を弾く少年、ニ人の後方に片腕を怪我した少女がいた。
周囲にはゴブリンの死体が何体か転がっていて、戦いが始まってしばらく経っているようだ。
三人共俺と同世代ぐらいだな。
「コイツら手強いな」
「ナクク、焦ってはいけない。敵の全体を見て動きを予測するんだ。左のゴブリンのほうが動きが素早く剣の振りが速い。立ち位置を調整して一対一で相手できるようにするんだ」
ナククと呼ばれた盾使いの少年に彼の天成器だろうか、助言している。
落ち着いた男性の声で彼を窘め、腕や足を動かす位置を細かく指示する様子は、まるで彼の先生のようだ。
ニ匹のゴブリンの攻撃を危なげなく捌いている。
「クライ……どうする?」
「一人怪我してる。傷は深そうだ。仕方ない……加勢するぞ。」
戦いの最中に他人が加勢するのは気を付けないとトラブルの元だ。
先に声を掛けるべきか……。
戦いの中心部から離れた腕を怪我した少女に後ろから近づく。
「援護は必要か?」
「きゃっ! あんたどっからでたの!?」
右手の二の腕を怪我したのか出血が止まっていない。
見た目より元気だが、回復のポーションを使わないところを見ると手持ちがないのかも知れない。
「俺の天成器は遠距離型だ。助けが必要なら援護する」
「びっくりした!? ……でも助かる。いきなり奇襲を受けたから腕をやられた。ジーザー、剣を使っている方が戦ってるゴブリンは鎧を着てる。援護頼める?」
「フリミルッ! こんな得体の知れないやつに頼むのか!?」
「わたしもさっきの奇襲で利き腕を怪我をしてるし、ポーションもない。ちょっと怪しいけど、わたしの勘は大丈夫だっていってる。信じてカーマイン」
胸に金属のプレート、頭に簡素な鉄兜をしているゴブリンを両手持ちの大鎚を使う少年が相手している。
俗に言うアーマーゴブリンだ。
ゴブリンは冒険者や商人から奪った物資を加工して武装するが、その中でも戦闘に長けた個体は他のゴブリンより質の良い装備をして戦う。
ジーザーと呼ばれた少年はアーマーゴブリンの絶え間ない剣戟に苦戦しているようだ。
大槌に振り回されているのか大振りの時によろけることがある。
「ゴブリン共から距離を取るようニ人に声を掛けられるか? 一旦後退している間に脚を射抜く」
「わかったわ」
矢を錬成する時間がないな。
事前に作っていた錬成矢を腰の矢筒から取り、アーマーゴブリンの左脚を狙う。
「ジーザー! ナクク兄! ゴブリンから距離を取って!」
ニ人は驚いた様子だったが呼吸を合わせ後退してくる。
放たれた矢が左足の関節に刺さりアーマーゴブリンが前のめりに倒れた。
矢の刺さり具合から見て、あれではもう立てないだろう。
「回復のポーションまで譲ってもらい助かった。僕は冒険者ギルドのパーティー〈勝利の杯〉のナククだ。こっちがジーザー、このパーティーのリーダーをしてる。そして腕を怪我していたのが僕の妹のフリミル」
回復のポーションは街で売っている値段と同じ金額で渡した。
予備はまだあるし、怪我したままでは森からの脱出には支障がある。
「あんたなかなかやるのね。弓の狙いも正確だし、気配にぜんぜん気づかなかったわ」
「私はカーマイン。さっきは悪かったな、疑ってしまって」
フリミルの腰には、白銀の鞘に入った片手剣がある。
先ほどの戦闘では使っていなかったが、これが彼女の天成器カーマインだろう。
バツが悪そうに女性の声でこちらに謝罪してくる。
天成器は生成の儀式のときに鞘や矢筒などの付属した装備が共に錬成されることもある。
その場合、付属品は天成器の一部にカウントされる。
しかし、本体とは別の扱いでありそこに意思はない。
また、失くしたり壊した付属品は魔力や魔石を使い修復が可能だ。
ちなみにミストレアの生成のときには矢筒は錬成されなかった。
腰に付けている矢筒は父さんに教わって自分で拵えた物だ。
「たいした弓の腕だな、助かったよ。俺はジーザー、冒険者ギルドで活動してる。普段はもっと森の手前で狩りをしているんだが、少し奥まで入りすぎたみたいだ。この礼は必ずするよ」
「偶然近くにいたからだ。気にしなくていい」
ジーザーは魔石と討伐証も渡すと言ったがそれは断った。
冒険者ではないが見て見ぬふりもできない状況だった。
「良かったら街の北東にあるエンマーズ防具店に来てくれ。僕とフリミルの家は防具屋をやっているんだ。助けてくれた礼もしたい」
そう言われて見ると三人の防具はゴブリンを相手していた割にしっかりしている。
金属の胸当て、丈夫そうなブーツ、衣服に使われている布も上質そうな物だ。
(防具屋か。ここはご好意に甘えて訪ねてみたらどうだい。クライのブーツもそろそろ新調したいだろう?)
ミストレアが念話で頭に直接話し掛けてくる。
天成器は第二階梯になると念話のエクストラスキルを覚える。
念話は使い手なら声に出さずに会話できるが、他人と会話することはできない。
稀に広域念話という一定の範囲の人と自由に念話できるエクストラスキルを覚えることもあるらしい。
ミストレアの言う通りだな。
ブーツは普段から修繕して使っていたけどそろそろ新しく買い替えたほうがいいかもしれない。
「そうだな。機会があれば寄らせてもらう」
「機会があればじゃなくて絶対来なさいよ! 助けて貰ったのにお礼もしないなんてお父さんにすっごく怒られるわ! だいたいあんたはいきなり背後から現れたと思ったらあっという間にゴブリンたちを倒しちゃうし、ぜんぜんお礼は受け取ってくれないし……こ、このまま別れたら名前だけしかわからなくてまた会えなくなっちゃうじゃない!」
さっきまで怪我をして青白い顔をしていたフリミルが、頬を赤くしてたしなめてきた。
「わ、わかった。数日中には訪ねるよ」
「そう。それでいいのよ。待ってるから絶対来なさいよ!」
すごい剣幕で詰め寄るから思わず返事してしまった。
ナククとジーザーが苦笑する中、どこか得意げに胸をはると彼女は街に向かって歩き出した。
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