第20話 ラスボス
ふたりきりで会いたい。アーネストからの申し出に、きちんと会わねばと思い、彼女の住む別邸に馬車を走らせていた。
ゼストの真剣な告白後に、セイはにこりと微笑み、「いよいよ最後の戦いですね」と悪ふざけを言う。
(まったく、アーネスト様は私達からすればラスボスに違いなけれど、出向く身にもなって欲しいわ)
胃がきりきりと痛くなってくる。
彼女はもう、母国に帰ると言ったそうだ。
でも、まだアーネストは一度も会ったことがない。
ゼストから会うことを禁じられていたし、アンジュも勇気がなかった。
このまま顔を合わせることなく、国に帰ってくれても問題はないのだが、それでは納得がいかないのだ。
アンジュはアーネストからゼストを奪った。
どんな事情があっても、その事実は変わらない。
アーネストがどんなに気の強い女性であろうと被害者であり、一度はきちんと謝罪したい。
馬車を走らせていると、小さな城が湿原の向こうに見えてきた。
どくどくと胸を鳴らせていると、使いの者が近寄ってくる。
「アンジュ様の馬車で?」
「そうだ」
従者が受け答えしていると、アンジュはもどかしい気持ちにさせられる。
彼の指示の元、別邸まで馬の手綱を引かれてゆっくりと馬車が移動した。
そして古城の前に着くと、戸が開いた。
アンジュはそろそろと降りると、そこにはアーネストがいる。
さらさらの金髪は耳元で結われていて、髪飾りで留めてあった。
ドレスもレースやフリルがたっぷりで、普段から着ているものに抜かりがないように見える。ブルーの瞳が自分をじとっと見つめた。
「あなたが、アンジュね」
「はじめまして、アーネスト様」
アンジュは腰を折って挨拶をしたが、アンジュは佇んだままだった。
「私のこと可哀そうだと思ってない?」
突然の言葉にアンジュはどう答えたらいいのかわからない。
けれどもう嘘はダメと言い聞かせて、アンジュは小さく頷いた。
すると彼女はフンと鼻を鳴らす。
腕を組み、小柄だがアンジュを見下ろすように睨みつけてきた。
「私、あなたにそんな風に思われる筋合いないわ」
「え……?」
「そもそも、私がゼストに恋をしていたと思う?」
「違うのですか?」
「恋なんてお子様のすること、この私がする、と思っている時点で、住む世界が違うと思って欲しいわ。私はね、オーフィリア国の乗っ取りを命じられていたのよ」
アーネストの告白にアンジュを目を丸めた。
確かに、オーフィリア国はアーネストとゼストの結婚で最強の国になった。
しかし、アーネストの母国は魔法で盛んな国。
裏で操ることが出来れば、母国は安泰どころか最強の国を陰で操る恐ろしい国と言われるだろう。
「つまり、私はスタートラインにも立っていないし、興味ない。ゼストとあなたがイチャイチャしようと、私には全く無関係なのよ」
「でも……、そのわりには、ゼストに執着していたような?」
「おだまりなさい! この私が! そんな想いを抱くわけないでしょ? 全て母国の為よ」
「でも……それなら、国に戻れば良かったのでは」
アンジュは失礼かと思いつつ、口を吐いて出ていた。
すると、アーネストの目にじわっと涙が溢れる。
(えっ)
泣かせるつもりはなかったと慌てると、彼女は顔を逸らして目を擦った。
「これは悔し涙よ」
「はあ」
「私はなんとしてもオーフィリア国を手に入れたかった。母国を最強の国にしたかったの。ゼストなんて嫌いよ」
(嫌い……? つまり、好きだったかもしれないとか?)
アンジュははっとして、頭を下げる。
「ごめんなさい! 私が余計なことをしたばかりに」
「私が何も知らないと思って? あなたは余計なことをしていない。なにかしでかしたのはゼストよ。勿論、私が夫婦としての関係を拒んだせいもあるけれど、まさか他の女に色目を使う器量がある男だとは思わなかったわ」
「はあ……」
「男娼の男はいいわよ? 気にせず快楽を追及できるし、お金でなんでもやってくれて。オーフィリア国の男娼は躾がなっていると噂で聞いて、試してみたら止まらないのよ。すっかり虜だし、母国に数人連れて帰るつもりよ。手慣れた彼らに身体を開発されたみたい。ゼストにそんなことが出来るかしら? どうせ、毎晩毎晩同じような恰好で抱かれるだけでしょ?」
「え、ええと。あまり抱き合っていないというか。アーネスト様のことを考えると、そんな気になれなくて」
「そう……。でも、これからは好きにして。ゼストが性に長けているとは思えないけど。まあ、あなた程度なら彼で充分でしょう」
「はい、満足しました」
「そっ、そうっ! 満足したのねっ! そう、ならいいわっ。男娼を買うとゼストは逃げだす弱虫だから! 彼らの手練手管にはかなわないと思うわっ」
「そうだと思います。だって、男娼はその手のプロですからね」
「そう! プロよっ! 凄いでしょっ?」
アーネストは溜まっていたものを吐き出すように喋った。
まるで、それは友人に言うかのように。
アンジュは時々反論しつつ、黙って彼女の言葉を聞くことにする。
今まで誰にも言えなかった胸中を、自分には打ち明けてくれるのだから。
「だって、ゼストってオーフィリア国の王よ? それだけでドン引きだわ。国の為だと言い聞かせて、ようやく同じ空気が吸えるかと思ったのよ。でも、寝室とか食事とか、絶対に一緒に出来なくて、別邸に逃げたのよ。だって寝ていると『アーネスト』なんて言って変な甘い声でうなじとか耳朶とか撫でてくるから。気持ち悪くて!」
「生理的に無理と」
「そ、そうね!」
(多分、私の予感が正しければ、アーネスト様は私よりも初心で真面目な方だわ)
しかし、今更ゼストとの夫婦関係を解消し、再びアーネストの夫になることは出来ないだろう。それに、アンジュだってゼストがアーネストを口説き落とすところなど、見たくはない。
アーネストだって、アンジュを娶った時点でゼストを前よりずっと見下しているだろうし、自身の恋心に蓋をし続けるだろう。
代わりに彼女はその生真面目な心でアンジュとゼストを呪った。
わざわざ宮中の情報を仕入れて耳に入れたりして、辛くなかったのだろうか。
(でも、恋をしていたのであれば、余計に知りたくなるものよね。やっぱり私は悪者だわ)
「つまり! 私のことなんて忘れて、ふたりでオーフィリア国の為に尽くすといいわ」
アーネストはそう言い切ると、アンジュの前から立ち去った。
(これで終わり、よね)
アーネストの気も紛れて、国に帰ってくれると信じてアンジュも馬車に乗り込んだ。
揺られながら、彼女にもう一度謝罪の言葉を口した。
「本当にごめんなさい。あなたの居場所を、私は奪ったわ」
アーネストはモヤモヤした気持ちを抱えながら、馬車に揺られて城に戻った。
帰ってくるなりエントランスホールでゼストに抱きしめられて、口づけされる。
「んんっ……、待って……待って? 人が見ているわ」
「ダメだ。こんなこと、もう二度としない」
「そう……。本当ね? 他の誰にも色目を使わないわね?」
「ああ、当たり前だ」
「でも、あのアンクレットがある限りは、絶対に離れられないのよね?」
「そうだ。祝福のアンクレットだぞ」
そう言われると、少し違う気がするが、アンジュは頷いた。
「そうね。祝福だわ」
アンジュは胸に顔を埋めると、ゼストの体温を感じた。
やっと、彼の妻になれた気がして、ほっとしてくる。
「私、ゼストを好き」
思わず口から出ていると、ゼストが耳朶で囁いた。
「知ってる。俺も好きだ」
「もう、本当はずっと前から」
「いつから?」
「こんなところじゃ、言えないから」
アンジュは溢れてきた想いを堪えきれずに言ってしまいそうになる。
ここで打ち明ければ、周りのみんなに迷惑がかかると必死に堪えた。
ゼストは察して、アンジュの手を引いた。
そして、ふたりの寝室がある二階の奥の部屋を進んでいく。
城の太く長い廊下を駆けて行くと、部屋に入るなりドアに鍵が掛けられた。
そして、ベッドに連れて行かれて押し倒される。
「さあ、行ってくれ。いつから俺を好きだった?」
「本当は、側室にいて、出会って抱きしめられた頃から、好きだったと思うの。でも、そんなことを言ったら、不倫になってしまうから」
アンジュはゼストを潤んだ瞳で見つめていた。
今まで、言えなかった最大の秘密だ。
そして、本当なら墓場まで持っていこうと思っていたことを今はどうしてか、伝えなくてはいけないと思っている。
少なくとも、アーネストより自分を想って欲しいと今は思うのだ。
「ああ、そうだな。アンジュは死刑になってしまう」
「でも、本当は分かってる。ただ想うだけでも、誰かを傷つけたりするし、不快させてる。態度に出るし、制御出来ないこともあるから」
「アンジュは俺を受け入れていたからな? 結局、俺が強引にしたこで、間違いはなかった」
「でも、アーネスト様の居場所を奪った罪を背負う覚悟はあるの。私もそんな日が来たら、あの別邸に行こうかなって」
「バカなこと言うな。俺はアンジュだけだ」
「……うん」
アンジュは自らゼストの首に腕を回してキスをせがんだ。
一瞬驚いた顔をされたが、すぐに口づけされる。
「今度は子作りだ。はり切るぞ」
「頑張らないでも、すぐに出来るわ。だって……、もう毎晩抱き合っているじゃない」
「そうだな」
ゼストは納得するように頷くと、アンジュはキスだけでも頭を蕩けさせるように、没頭し始める。
舌を絡めさせ、いつになく積極的になれていた。
アーネストがいなくなるからじゃなく、今度はゼストを自分の魅力で満たさないといけないと思ったのだ。
ゼストはどんな時に心変わりするか分からない。
それは、きっと永遠に拭えない不安だろう。
「はぁ……はぁあん」
「どうした? もう感じてるだろ?」
「そう。ゼストのことを考えるだけで、身体が震えてる。触れてるところがジンジンする」
「どうした?」
「もっと愛して?」
うっとりと呟くと、ゼストは耳朶で囁いた。
「永遠の愛はもう誓った。来世の愛を今度は誓う」
「ありがとう。でも、その時はロイナー国の王でいて?」
「そうだな」
アンジュはキスを受けながら、ゼストに甘えた。
唾液が絡み唇が涎にまみれていく。
舌先で口内を舐め回されて、身体がひくひくと震えた。
会って初めて言われた蕩けるようなキスを今日、ようやく出来た気がする。
それまでのキスは、練習だったと思わされた。
「ふぁあ……あぁあ……ゼストォ……好きぃ……」
「そんな声を出して。もっと甘えて、声に出して言ってみろ」
「好き……好き……」
「キスだけでもイケそうだろう?」
こくこくと頷くと、アンジュは息を荒げた。
とろとろの蜜が溢れだして、下着を汚しているし、胸は下着に触れるだけでじんじんする。
「ふあぁあ……あぁあ……」
「どこからしてほしい?」
「ゼストの体温をいっぱい感じたい」
アンジュの提案に、ゼストは着ているものを脱いで上半身裸になった。
そして、自分に覆いかぶさるように抱きしめてくる。
いやらしさを感じていると、すぐに胸の前の布が引き下ろされた。
「あっ!」
そして、ふにふにとたわわな胸を揉みしだかれると、すぐに声が上がる。
右も左も両方丁寧に揉まれると、息をするのも辛くなってきた。
「はぁ……あぁ……あぁ……」
「どうした? 今日は身体もいつも以上に敏感だ」
「だって、ゼストは私のだから」
「そうだ」
「私のだって言うのは簡単だけど……、ゼストは同じこと思ってくれるのかなって」
「じゃあ、約束だ。来世も来来世も、ずっとアンジュの夫だ」
「……うん……」
「これでも足りないなら、俺をたぶらかす呪いをかけるといい。俺がアンジュのことしか見えなくなる呪いでも、魔法でも」
「……もし、そんな日がきたら、そうする、かも」
アンジュは冗談でも言ってしまう。
そのくらい、彼への想いが膨らんでいた。
彼に全てを捧げて、辛い想いを乗り越えた。
封印していた恋心だって打ち明けることも出来たのだ。
箍が外れて仕方ない。
「ここ。ぷっくり膨れてきてる」
言うなり先端を吸い付かれて身体戦慄いた。
「あんっ!」
ペロペロ舐められて、ピンク色の突起は涎まみれになった。
反対の膨らみは休むことなく揉みしだかれる。
絶え間なく快楽を与えられて、アンジュは腰を引いて逃げてしまう。
するとすぐにおさえこまれて、続きをされる。
「反対も」
ちゅっと吸われて、甘い声をあげるとアンジュはイヤイヤと首を振った。
「あっあっ!」
「確認」
そう言うなり、今度はスカートの中に手が潜り込む。
そして、ドロワース越しに湿り気を確かめられた。
「染み出るほどだ。辛いだろ?」
「ううん。今はこの時間も好きなの……。気が遠くなりそうだけど、凄く心地いい」
「言うようになったな?」
「だって、ゼストを好きだもの」
甘えた声でアンジュが言うとすぐにまた再開されて、先端を舌先が捏ね始める。
息を荒げながら、腰を揺らめかせていると、するっとドロワースが引き下ろされた。
スカートをめくりあげられると、茂みを掻き分け花芽を見つけられて、押しつぶされる。
「んっああぁ!」
頭がトロトロになっていき、何も考えられなくなってしむ。
はしたなく密を垂らし続けて、ゼストのほうを見つめた。
するとそっとキスをされる。
「んんっふぅ」
口内を舐られながら、蜜芽を弄り回されると途端に頂きを上り詰めてしまう。
淫靡な吐息を漏らしながら、頭の中はゼストのことでいっぱいで、幸せだった。
「だめ……だめ……ぇ」
ひくひくと蜜口を痙攣させながら、体を悶えさせていると蜜壺に指が二本突き入れられる。
すぐに飲み込んでしまいと、三本に増やされた。
めちゃくちゃに掻き混ぜられると、卑猥な水温が部屋中に響きわたる。
「ほしいだろ?」
「うん……。たくさんほしい」
潤んだ瞳でお願いすると、内壁をこすり上げながら指が引き抜かれた。
そして、ゼストはスラックスをくつろげると、熱を直接蜜口い押し当てる。
ひりひりするような感覚を堪えながら、アンジュは猛りを受け入れた。
ぬるっと侵入してくると、ゆっくりと奥まで貫かれる。
「あっあぁあっ」
「締まる。今日は挿入だけでも、きつい。イキそうで堪えているか?」
「……うん」
アンジュはとろとろの頭で答えると、ゆっくりと最奥を突かれ始めた。
そのまま大きなストロークが開始されると、腹の奥に響くような激しい抜き差しに体が戦慄く。
シーツを引いて口をパクパクさせていると、同時に胸を揉まれ始めた。
「あっ! それ……いやぁ!」
アンジュは快楽の坩堝に飲まれそうになって、首を振った。
しかし、ゼストは先端を捏ねながら腰を思いきり最奥にあててくる。
鋭敏なところを両方刺激されて、アンジュ腰ががくがくと震えた。
隘路は締まり、猛りを思いきり締め上げるとゼストが切ない吐息を漏らす。
同時に抜き差しが早くなって、激しく突き上げられた。
「あんっあんっ!」
あられもない声をあげながら、アンジュはいやいやと顔を振っていると頭の中が真っ白になっていった。
その刹那腹の奥で白濁が飛散する。
「あっ!」
どくどくと注がれて、アンジュは体を震わせた。
ゼストは息を荒げさせて倒れこんでくる。
「アンジュ、愛してる」
「私も」
抱きしめ会うと、ふたりはしばらく身動きすることも億劫になってベッドで繋がったまま抱き合っていた。
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