第285話 気になる

いつまでもこの薄暗い空間にいるのも居心地が悪かったので、私たちはすぐに外に出ることにした。


ちなみに魔法を込めたバレッタは髪につけておいてほしいとアレクからのご要望があったので、私は心配性だなと思いつつ、髪につけておいた。


これで奴隷商人のグループは全て捕まえたことになる。もし奴隷商人の生き残りがいたとしても、彼らだけではなにもできず、自然消滅することだろう。


もちろん見つけ次第捕らえるつもりではあるが......奴隷商人という仕事に手を染めなければならないほど貧困な人がいるということは理解しておかなければいけない。かつてイサベルを攫おうとした奴らも言ってたことだけど...私たち貴族にも責任はあるからね。


太陽が沈み、暗くなってきた町を四人で黙って歩きながら、私は呟く。


「......アレク」


「......ん?」


少し遅れて、アレクが返事をする。彼はなにかを悩んでいたらしかった。私は言葉を続ける。


「この事件、もしエリック殿下が犯人なのだとしたら......もし証拠が揃っても、隣国が無理やり隠蔽する可能性があるわ」


「......そうだな」


「もしそうなったら......貴方は諦める?国同士の仲が悪くなってしまうから、この事件はなかったことに......する?」


王族が闇の組織に関わるという大失態を、ルトレット国が許すはずがない。第一王子が犯した罪ならば、むしろ隠蔽しようとするのが自然な流れだ。


私はアレクを見上げた。イサベルは不安そうに、アーグレンはまっすぐ、親友を見つめた。


「絶対にしない。悪人は誰であろうと決して許さない」


「......隣国の王子を捕まえたら、貴方が隣国に嫌われてしまうかもしれないわ。」


「それでも構わない。真実を隠すよりずっとマシだからな。」


自分の立場よりも、正義を選ぶのね。貴方は正しく理想の王子様だわ。やっぱりこの国を背負っていけるのはアレクしかいない。


私はふっと微笑んだ。


「それでこそアレクね。...アーグレン、イサベル...この件に関わった貴方たちも私たちと同じように隣国に嫌われる可能性があるけれど...どうする?嫌ならこの件から手を引いていいわ。」


イサベルはえっと驚いたように目を見開き、アーグレンは表情を変えずに即座に答えを告げた。


「私は公女様と殿下の騎士ですから、お二人の意見に従います。どうかお好きなようにお使いください。」


「わっ、私もアーグレン様と同じです!!手を引くなんてありえません!ぜひ私にも手伝わせてください!」


一歩間違えれば一つの国を敵に回すかもしれないのに、迷いなく二人がそう答えるので、私とアレクは顔を見合せて笑ってしまう。私たちはどうやら本当に素敵な友達を持ったようだ。


「ありがとう。嫌われるかもとは言ったけど、貴方たちのことは私が絶対に守るから、何も心配しなくていいわ」


「リティの言う通りだ。リティも、イサベルもグレンも、皆俺が絶対に守るからな」


「......私が守るって言ったんだけど?」


「聞こえないな」


「ちょっと!」


私が思わず声を大きくすると、イサベルがぷっと吹き出した。


アレク、アーグレン、そして私が弾かれたようにイサベルをじっと見つめると、それに気づいたイサベルが「あっ、いえすみません!」と何故か恥ずかしそうに謝罪した。


「謝らなくていいのよ?」


「そうですか...?ありがとうございます。リティ様とアレクシス殿下がとても幸せそうで...つい笑みがこぼれてしまいました」


私たちの幸せを誰よりも願ってくれていたアーグレンとイサベルは今私たちがこうして一緒にいることを心から喜んでくれているのだろう。彼らのためにも、私はもう自分の幸せを諦めてはならない。


「アレクと一緒にっていうのもそうだけど......私はイサベルとアーグレンとも一緒にいられてとても幸せなのよ。二人共...この先なにがあっても...私のそばにいてくれる?」


「もちろんです!!」


アーグレンとイサベルの声が重なり、彼らは驚いてお互いの顔を見合せていた。この二人、意外と気が合うみたいね。私は優しく微笑んだ。


私がその先の言葉をいつまでも言わないので、「あれ?俺には聞いてくれないのか?」とアレクが拍子抜けしたような声を上げる。


「アレクはいいの。私が貴方のそばにいるから」


そう答えると、アレクは目を丸くして驚いていたが、「そっか、ありがとう。俺もそばにいるからな」と照れくさそうに笑っていた。


すると突然風が強くなり、私たちの体温を一気に奪っていく。近くにあった森の木々がガサガサと不気味に揺れ、早く帰るようにと脅しているようだった。


アレクとアーグレンは私とイサベルに自分の上着を被せると、そのままその場を足早に通り過ぎようとする。しかし私は視界の隅になにかが動いていることに気づいてしまった。一瞬見えたなびく髪に、私は見覚えがあった。


「......王女様?」


そう思った時には、私は既に森に向かって駆け出していた。背後から、私を呼び止める三人の声が聞こえた。






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