第276話 計画通り

そして後日、私たちはイサベルが攫われたあの現場の近くにやって来ていた。私とイサベルは「お忍びでやってきた令嬢」風のコーデをし、アレクとアーグレンは揃ってフードを被り、見るからに怪しい男を演出していた。


「……なぁリティ、この方法も悪くないと思うけど、やっぱりリティとイサベルが危険になるようなやり方は……」


「あら私のやり方に文句をつけるつもり?それじゃぁ私とイサベルが代わりに商人役をやるから、貴方が攫われる令嬢役をやってくれるかしら?」


「令嬢役!?それは流石に無理が……」


「まぁ貴方の女装も見てみたくはあるけど、今回は大人しく私に従ってほしいの。いいわね?」


「分かった……」


最初はイサベルと私が奴隷(にされる予定)役なんてとアレクに大反対されたが、私が強引に説き伏せた。納得はしていなさそうだが、心配だからと着いてきてくれたようだった。


「リティ様、ここは確かに私が連れ去られた場所ですが……どうやら誰もいないようです」


「そうみたいね。」


「どこまで情報が伝わっているかは不明ですが、ここでイサベルさんを連れていこうとしたことがきっかけとなり、三つのグループが潰れてしまったので…最後のグループが恐れて近づかないのかもしれません。」


「確かにその可能性は否めないわね。」


だが他に手掛かりとなりそうな場所はない。私とアレクが潜入したグループを含め、三つのグループが秘密基地として利用していた場所は既に固く封鎖されている。わざわざ興味本位で奴隷商人たちが近づくことはまずないだろう。


他に手掛かりがないのなら、ここで待つしかないのだ。


「でも……私とイサベルの見た目は奴隷の中でも最上級。そして貴方たち二人は明らかに奴隷商人の見た目……近くに騎士の姿もないとしたら……」


「おい、お前たち!そんなところにいたら騎士団の奴らに見つかるぞ!」


私を除いた三人が弾かれたように声の方角を見る。そこにはイサベルを攫ったあの男同様、フードを深く被った怪しい男が立っていた。


私は予想通りすぎる展開に思わず笑みを浮かべる。


「恐らく奴隷を売った数だけ他の商人にも報酬が入るんでしょうね。その奴隷の状態がよければ報酬も格段に上がる……」


驚いて言葉も出ない彼らを見て、私は更に言葉を紡ぐ。


「つまり私たちは、騎士に見つかる危険を冒してでもほしい商品ってこと。」


その言葉に、イサベルはまん丸の瞳を更に丸くして驚いていたが、アレクとアーグレンは険しい顔をしていた。


そして、私たちの正体など知らない奴隷商人は、こちらへやってくると、1番近くにいたアレクに話しかけた。


「お前たち…見たところ新入りみたいだが、こんな上物を二人も見つけるなんてすごいな!?二人共健康そうだし、これなら死ぬまで安心してこき使えそうだ!」


ブチッとアレクの中のなにかが切れる音が聞こえたような気がしたが、ここで正体を明かしてはならないことは流石に本人も分かっていた。


「……………そうだな」


全くそうだなと思っていないような声で呟いたが、商人は全く気にしていないらしかった。続いて彼はアーグレンへ話しかける。


「どこから嗅ぎつけたのか知らねーが、最近は騎士団の奴らがウロウロしててさ……仲間をどんどん捕まえて牢屋に放り込んじまったんだ。でもまだ唯一俺たちのグループだけは見つかってなくてな!アイツらが無能でホント助かったよ!」


一瞬ローブの中に隠した剣に手をかけようとしたアーグレンだったが、私の無言の視線を受けてどうにか平静を取り戻したようだった。


「…………よかったな」


アレク同様全くよかったなと思っていないような声で呟いたが、例のごとく商人は全く気にしていなかった。


無能なんじゃなくて他のグループを一つずつ確実に潰していったから時間がかかった…とは考えないんでしょうね。


それにしても見事に彼らの地雷を踏み抜く奴隷商人には逆にすごいと思わざるを得なかった。


「よし、行こうぜ。こんなところにいたら騎士団に捕まるからな」


まさかここに騎士団と王子がいるだなんてそんなことはまるで思っていない奴隷商人がそう呟いた。


そしてそのまま商人に先導されて、私たちは最後のグループの待つ場所へと向かうことになった。


「まさかこんなに上手くいくなんて……驚きました」


「私も正直驚いたわ。とりあえず奴隷商人と奴隷が仲良く話してるのはおかしいから商人のフリをしてね」


「……すみません」


どうしても私に驚きを伝えたかったらしいアーグレンが奴隷商人の見ていない隙を狙って話しかけてきたが、いつ振り返るかも分からないのでそう言っておく。


アレクは私とイサベルの方を何度も見ていたが、アーグレンのように話しかけようとはしていなかった。理由は簡単。私が口パクで話しかけるなと言っているからだった。


「話しかけないで」


「なんで?」


「バレるから」


悪とはほど遠い性格のアレクが悪のフリをするのなら黙ってもらうのが一番だ。ふとした瞬間に私とイサベルを気遣うような発言をしそうだし、なんならエスコートまでしそうなので何も言うなと伝えているのだった。


……ちなみに本人はすごく悲しそうにしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る