第275話 作戦会議

「それに……皇后は私をすぐには消さないと思います。」


アーグレンはポツリと呟く。私はその言葉に頷いた。


「私もそう思うわ。アレクの親友である貴方を簡単に殺すわけない。皇后のことだから、最後まで利用するはずだわ」


「アーグレン様を利用してこれからも殿下とリティ様の邪魔をする…ということですよね?皇后陛下って怖いお方なんですね……」


イサベルは皇后の姿を思い出し、身震いしている。そして彼女はふと浮かんだ疑問を口にした。


「あっ、すみません、話を元に戻すんですけど…どうして奴隷商人は奴隷を求めるんでしょうか?」


彼女の素朴な疑問に、私はハッとする。確かにそうだ。奴隷制度が禁止されているこの国で、奴隷を求めるというのはそれだけでリスクがある。


それでも尚求めるということは、奴隷を売ることで得られる利益がリスクよりも上回っているということだ。


「確かにそれはそうですね…彼らは奴隷を売っても大した額にはならないと言っていました。それでも生活のために売るしかない…一度奴隷商人となった彼らはもう普通のところでは雇って貰えないんだそうです。だから奴隷になりそうな人間を見つけて売りさばく…そんな生活を送っていたようです。」


「それなら、彼らに職を与えれば解決するわ。でもきっと違う。もっと何か…もっと大きな目的のために利用されているんだわ。奴隷を売っても大した額にならないのなら、きっと主犯が求めているのはお金じゃない……」


お金じゃない何かを得るために彼らは利用されている。それを分かっていても、貧しい状況から抜け出すために奴隷として捕まえた人々を売るしかないのね……。


私はたまたま公爵令嬢に転生したけれど、一部の平民はきっと私の想像以上に過酷な生活を強いられているはず。


この立場にあぐらをかいているようでは、いつまでたっても皇后にはなれない。いや、相応しくない。


「アーグレン、この国にいる奴隷商人のグループはあといくつ?」


「はい。今までの調査で判明した大きなグループは合計四つです。一つは公女様と殿下と共に捕え、後の二つも捕らえております。残るはあと一つですが、巧妙に入口が隠されているようで、まだ見つかっていません。…全て捕らえてからご報告しようと思っていたので、報告が遅れてしまいました。申し訳ございません。」


「いいのよ。色々あったし、仕方ないわ。教えてくれてありがとう」


色んなことがありすぎて、正直奴隷商人のことなど頭の隅に追いやられてしまっていた。でもよく考えたら…いやよく考えなくてもこの事実は放ってはおけない。早急に残り一つのグループを解体させなければ、新たにグループが作成される可能性さえ出てくるのだ。


「一体どうすれば奴隷商人をおびきだせるでしょうか……」


「そんなの決まってるじゃない。奴隷になるのよ」


「え?」


「奴隷にぴったりなのは若く美しい少女よ。反抗もできないでしょうからね。リティシアは問題なく美しいし、イサベルなんてそれ以上よ。これ以上ない条件じゃない。」


イサベルとアーグレンは呆気にとられた様子でこちらを見つめている。手っ取り早い方法はこれしかない。


「……あ、でもイサベルがあの時を思い出してしまうのなら、やらなくてもいいわ。無理はさせたくないからね」



「いえ、私やります!できます!今度こそ、今の私は攫われないということを証明してみせます!」


「よかった。もちろんイサベルのことは私が護るから安心してちょうだいね」


「え!?逆ですよ!私がリティ様をお護りするんです!この力はそのためのものですから!」


イサベルは自身の手を見つめると、強く握りしめ、決意を顕にする。頼もしいが、彼女は私のように炎を使えるわけではないし、なにより優しすぎるから本気で誰かを攻撃するなんてできないだろう。


「ありがとう。でもその力は貴女のために使いなさい」


「分かりました!私が私のためにリティ様に使います!」


「……もうそれでいいわ。無茶だけはしないでね」


「はい!」


「それで、アーグレンは……」


「お話を聞いておりましたが、お二人が囮になるのは危険すぎます。ここは私が囮に……」


アーグレンは私が言い終わるより先に自分が囮になろうと申し出たが、私はすぐに否定する。


「そんな見るからに強そうな騎士を奴隷にしようとする奴なんていないわよ。どう見ても私とイサベルが適役だわ。奴隷役は私たちでいいとして……後はもう一人協力して欲しい人がいるわね。」


アーグレンとイサベルはその言葉だけで、私が協力を求めようとしている相手が誰かすぐに分かったようだ。


「この国で起きていることは、この国の王子様に解決してもらわなきゃね。」


そして何より、彼はこの事件を解決したがっているはずだ。国民が困っているのなら、なんとしてでも助けようと思ってくれる人だからね。


「さぁ、そうと決まれば早速声をかけてみましょう。…もう答えは決まってるようなものだけどね」

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