第269話ㅤ作り話
......知らない?アレクの服のことなのに、アレクが知らないなんてことある?
彼が知らないのなら理由はただ一つ......今のは、皇后の作り話だったということだ......。
「そう。今のは私の作り話。貴女が適当に謝っていないかを知るためだったんだけど......どうも適当に謝っているようには見えなかったのよね。ねぇ、どうして謝ろうとしたの?貴女本当に......リティシア=ブロンドなの?」
しまった......まさかこんなことで墓穴を掘ることになるとは......。作り話を振られるなんて考えもしなかった。アレクの反応を見てから答えるんだったわ。
過ぎたことを悔やんでいると、アレクが代わりに答えてくれた。
「......この子はリティシア=ブロンドだ。それは間違いない。ただ、昔のリティシアとは違う。それだけだ。今のは母さんの威圧でやっていないことをやったように錯覚させられただけ......そうだよな?リティ」
「......えぇ、そうよ。昔の私はあまりにも酷かったから......それで、そんなこともしてしまったかなと思っただけです。混乱させてしまって申し訳ございません、皇后陛下」
数え切れないほどの悪行をしてきたリティシアだから、きちんと覚えていなくても納得......してもらえるはず。してもらわなければ困る。
今更私が別人だなんて知られたら公爵令嬢ではないことを証明するようなものだもの...。ただでさえ嫌な噂がつきまとっているというのに......。
皇后は、明らかに私達が誤魔化しているということに気づいたようだが、それ以上の興味はないようだった。
「まぁ......アレクに免じてそういうことにしておいてあげるわ。貴女が誰かなんてどうだっていいしね。ところでリティシア嬢。貴方は先ほど、暴走していたアレクに会っているわね?」
「......はい」
「貴女が素直に殺されていたら、アレクはきっと魔力譲渡の儀式に成功し、もっと強くなっていたわ。それに関しての謝罪の気持ちはないの?」
「母さん!なんでそんな......!」
「それに対しての謝罪の気持ちは一切ありません。」
私は、迷わず答えた。過去のリティシアの悪行に関してなら、私はいくらでも謝ろう。だが自分が意志を持ってしたことなら、謝るかどうかを選択させてもらう。
皇后の眉は一気に吊り上がり、分かりやすく不機嫌になる。
「......どうして?」
「確かに、私が大人しく殺されていればアレクは強くなっていたかもしれません。ですがそうなればアレクはただの言いなり。貴女の操り人形と化すだけです。そんな彼を、私は絶対に望みません」
「操り人形......ね。正確には、操り人形ではないわ。私の意思がそのままアレクに伝わり、自分の意思として動くのだから。」
「皇后陛下。アレクは、貴女の物ではありません」
「分かっているわ。貴女なんかに言われなくても」
「いいえ。操り人形である彼を自分の意思だと言い切ってしまうほど、貴女はアレクを自分の物だと思っています。常に自分の思い通りに動かさなければ気が済まない。そう思っているんですよね?」
「思っていないわ!私はアレクを愛しているの!お前なんかよりもずっとね!全てはアレクのためを思ってしたことよ!」
「アレクのためを思ってしたことが、彼の婚約者を彼の手で殺させることですか?彼の意思を完全に消し、魔力の強い王に仕立て上げることですか?甘い物を食べてはならぬと制約を課すことですか?」
「リティ......」
アレクは私を見て呟いた。
「貴女がしていることは、ただの虐待です。愛なんかではありません。アレクを本当に愛しているのなら、彼の選択を、彼の道を塞ぐような真似をしないで下さい」
「お前のような小娘がよくも私に説教を......私も随分となめられたものね。」
「説教ではありません。ただ私は貴女に他の親子と同じようにアレクを愛してほしいんです。私のことは好きなだけ憎んでくれて構いません。ですが......アレクのことは、アレクのことだけは、ただ普通に愛してあげて下さい。」
この部屋に入った本当の目的は、私とアレクとの結婚を認めてもらうことだったけど......やっぱり私はこの親子の問題も見逃せない。
こんなに優しいアレクが親から優しくしてもらえないなんて絶対におかしいから。だって...あのリティシアですら愛されて育ったのよ?普通に考えておかしいって思うでしょ?
「リティ......その気持ちは嬉しいけど、それは......」
「.........ねぇアレク」
皇后は光の灯らない暗い瞳で、アレクを見つめる。その恐ろしい表情に、アレクですらゾッとしているようだ。
「私は......貴方を愛しているわよね?貴方のためなの......全部、貴方を立派な王にするため......分かってくれるでしょ?あの女が変なことを言ってるだけ......そうよね?」
言え、私が貴方を愛していると。皇后はそう目で強く訴えている。私は正直、呆れるしかなかった。アレクは......自分の母親の目を真っ直ぐ見つめ、答えた。
「俺は、愛されてないと思ってる」
「......えっ?」
「母さんは、俺を立派な王にしたいんじゃない。母さんが作ろうとしてるのは、母さんの選んだ相手と結婚して、母さんの魔力を受け継いで、母さんの言うことを聞く......そんな中身が空っぽの王なんだ。」
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