第264話 おかえり
その言葉に、アレクは大きく目を見開いた。私のこの言葉は、本心だ。今までも、そしてこれからも。私の全ては貴方のものだ。
なんと言うべきか迷っているアレクに、私は言葉を続ける。
「それで?」
「え?」
「もっと他に私に言わなきゃいけないことがあるんじゃないの?ごめんなんていらないわ。私が好きでしたことなんだから」
「あっ……そうだな。助けてくれてありがとう、リティ」
「それもそうなんだけど私が言ってほしいのはちょっと違うのよ」
「これも違うとなると……うーん……俺の涙は……」
「違う。全然違うから言わないで。」
まさかの先ほどの台詞を繰り返そうとしたアレクを全力で止めると、私はふぅと息を吐く。一時の感情で言葉を放ってしまうと、こういう弊害が起きる。
再び正解を真剣に考えだしたアレクが面白くて、私はくすっと笑う。仕方ない、教えてあげよう。
「私は、貴方が帰ってくるのをずっと待っていたのよ。そんな相手に言う台詞って、なにかしら?」
私の求める答えにようやく気づいたのか、アレクははっ、と表情を変えた。そして眩しい笑顔をこちらに向ける。
「ただいま、リティ」
その言葉に満足した私は、アレクの頭に手を乗せ、そっと撫でる。
「おかえり、アレク」
この先、貴方が例えどこに消えようと私は絶対に見つけてみせるわ。元いた世界を捨てさせてまでこの世界に連れてきたんだもの。それくらい許してくれるでしょ?
「……あの、り、リティ様」
その可愛らしい声で、私は一気に現実に引き戻された。そして未だにアレクに抱きついていたことに気づき、慌てて離れると、キリッとした表情を作る。そしてコホン、と軽く咳払いをした。
「な、なに?イサベル」
「お邪魔してしまいすみません……殿下は本当に元に戻ったのでしょうか?まだ暴走の影響が残っていたりは……」
「どうなの?アレク」
「あぁ、リティが吹っ飛ばしてくれたおかげで元に戻ったよ。皆、ありがとな」
「それはわざわざ言わなくてもいいじゃない!?本気で悪かったと思ってるわ、ごめんなさい……」
「公女様、アレクは皮肉で言っているのではなく本気で吹っ飛ばしてくれたことに感謝しているのですよ」
ああ、そう、本気で言ってるの……ってそれはそれで問題じゃない?自分を吹っ飛ばした相手に感謝するって……ほんと変わり者ね、アレクは。
私がなんとも言えない表情でアレクを見つめると彼はきょとんとした表情を浮かべた。こういう時は皮肉で言った方が面白くなるということを後でしっかり教えておこう。
「と、とにかく、殿下が元に戻って本当によかったです。お側にいながらなんのお役にも立てず申し訳ございません。リティ様、殿下、アーグレン様。」
「何を仰いますかイサベルさん、力不足であったのは私の方です。主人の危機を救うことができなかった私は騎士失格です。どうぞ罰をお与えください」
隣で頭を下げるアーグレンの様子を見て、イサベルは即座に声を発する。
「いえ、アーグレン様は殿下を止めようと必死に戦ってくださいました。なにもできなかった役立たずは私の方です。罰を与えるならどうかこの私に!リティ様、殿下!」
二人が頭を下げる様子を見て、私とアレクは顔を見合わせる。そして同時に呆れてしまった。
「あのねぇ、私たちがそんなことで罰を与えると思う?」
「そんなことではございません。私が殿下をお止めできなかったばかりに、公女様の命が失われそうになったのです。魔力の暴走に飲み込まれ、殿下が亡くなる可能性だってございました。それ相応の罰を受けるのが当然です」
一歩も引かないアーグレンとイサベルを見て、私は「どうする?アレク」と顔を見る。彼は「そうだな……」と呟き、二人に顔を上げるように指示した。
「そんなに罰を与えてほしいならそうしてもいいか……」
「えっ!?な、なに言ってるの!?この場に貴方の意見を否定できる人間なんていないのよ!?それを分かって……」
「というのはもちろん冗談で、二人に罰を与えるつもりはもちろんないさ。」
「もしかして私の反応が見たいから言ったとかじゃないわよね?違うわよね?」
「……二人とも、俺を助けてくれて本当にありがとな」
「ねぇ?聞いてるんだけど?アレク?」
確実に聞こえているはずなのに聞こえないふりをするアレクに私はむっとして口を尖らせる。その表情を見てアレクは「ごめんごめん」と楽しそうに笑った。
「そう、お前の反応が見たかったからだよ、リティ」
「やっぱりそうなのね、全くもう……」
「リティは優しい子だから、俺が罰を与えようとしたら真っ先に止めるんだろうなと思ってな。」
「別に優しいわけじゃないわ……」
アレクと仲良くなってから、ずっと彼の掌で転がされているような気がするのは気のせいなのかしら……。
まぁそれで彼が楽しいならいいし、私も楽しいんだけどね。こういう何気ないやり取りって宝物だと思うの。当たり前なんてこの世に何一つとしてないのだから。
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