第259話 秘密の訓練?
無理やり魔法で開けてしまうなんて……一体どこで覚えてきたんだろう。
「イサベル、ありがとう。でもお願いだから犯罪にだけは使わないでね……」
「使いませんよ!この力はリティ様と殿下、それからアーグレン様のためだけにお使い致します。」
なるほど、私達が犯罪者にならない限りこの子は真っ当に生きてくれるということね。
イサベルのこれからの人生を背負ってるんだからちゃんと真面目に生きましょ。……悪役令嬢の役はもう捨てたんだし、真面目に生きるつもりだったけどね。
「……公女様。この部屋を警備する者が誰もいません」
「え?」
「いくら秘密の訓練と言えど、入り口に誰も立たせず無防備な状態にするとは思えません。」
アーグレンの言葉で気づいたが、よく考えたら私達がここまで辿り着けたというのも変な話だ。王族の秘密の訓練に私達部外者が立ち会えるわけはない。彼の言う通り警備する者が扉の側に立っているはずだ。
警備の者はいない。それどころか私達以外誰もいない。やはり秘密の訓練というのはただの口実だと見て間違いないだろう。
「そうですね、確かにおかしいです。秘密の訓練というのは嘘なのでしょうか…。」
「嘘か本当かはこの扉を開ければ分かるはずよ。……この扉、開けたら爆発するとかそういう仕掛けはないわよね?」
「はい、この扉から魔力は感じませんので、ただの扉のようです」
よかった、粉々に消し飛んでからだと取り返しがつかないからね……。イサベルもアーグレンも魔力を感じないというのだからきっとただの扉だろう。考えすぎたようだ。
二人が開けると言い出したが、私はそれを押しのけて自分で扉のノブを握った。この先に、アレクがいるのか。もしいるのなら、無事でいてほしい。これ以上、傷つかないでほしい……そんな思いを込めてゆっくりと扉を開いていく。
そこには誰もいなかった。あの時は沢山の人で賑わっていた華やかなパーティ会場だったが、誰もいない会場は驚くほど寂しい空間だった。
「……誰も、いないみたいですね」
イサベルはキョロキョロと辺りを見渡すと、不思議そうにそう呟く。
「そうね、じゃぁどうして鍵がかかっ……」
「公女様!!避けて下さい!!」
アーグレンが突然切羽詰まった様子で声を張り上げたので、私は「避けろってなにから……」と言いかけ、言葉を失った。誰もいなかったはずの空中に、人が現れている。しかも剣を振り上げながら。
でも違う、私はそんなことに驚いてるんじゃない。
アーグレンは間一髪私の間に割り込み、自身の剣をぶつける。イサベルは咄嗟に私の手を強く引き、続いて「リティ様、大丈夫ですか!?」と声をかけてきた。
でも私の意識はアーグレンにも、イサベルにも向いていない。彼と戦っている人物……そう、青い髪に水色の瞳を持つ見覚えのある人物から、私は目が離せなかった。
「……アレク…!?」
彼こそ私達が心配し、探し求めていた人物だ。だがなにかがおかしい。いつもの優しい雰囲気はどこにもない。彼から感じるのはただ一つ…溢れんばかりの殺気だけだ。
私が自体を全く飲み込めないまま、アーグレンと戦うアレクを見ていると、イサベルが叫んだ。
「リティ様!殿下の瞳が!」
アレクの瞳は優しい水色から、禍々しい赤色へと変化していた。
「赤い…どうして赤いの!?」
今まで何度も彼と会ってきたが、彼の瞳の色が変わることなど一度もなかった。もしかしたらそんな魔法があるのかもしれないけど、それをするメリットが分からない。そして今一番理解できないのは、私達と敵対している……この状況そのものだ。
「分かりません…それにアレクはこんな剣を無理に振り回すような強引な戦い方はしない…!どうしてこんなことを…!」
アーグレンが必死にアレクの剣を受け流しているが、どうやらそれが限界のようだ。反撃に転じることもできず、押されっぱなしなのが見て取れる。
……これもおかしい。アレクはアーグレンに勝ったことが一度もないはず。そもそもアーグレンはこの世界で一番強い騎士なんだから、勝てるわけがない。
これは一体どういうことなの?なにがあったの?私の知らないところでなにが起こってるの……!?
「公女様!理由は分かりませんが……アレクは真っ先に公女様を狙っていました!早くここから逃げてください!」
その言葉に、深く傷つくのを感じた。世界で一番大切な人が、私を護るどころか、命を狙っている。どんな理由があったとしても、その事実が嫌だった。
「リティ様!ここはアーグレン様に任せて行きましょう!」
幸い扉からはあまり離れていなかったので、すぐに外に出られる。だが私の足は全く言うことを聞いてくれなかったのでイサベルが代わりに私の手を取り、走り出してくれる。
もう外は目前、と思ったその時、扉の前に剣が地面に突き刺さった。
「逃さねーよ」
私達はその声に振り返る。アーグレンを蹴りつけ、その直後に剣を放り投げた張本人……アレクがこちらを見て怪しく笑っていた。
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