第254話 魔法よりも強いもの

暫くすると、屋敷を直してくれる業者さんと共にお父様が現れた。お父様は私を見つけると真っ先に走ってきて「無事でよかったリティ……!」と強く抱きしめてくる。


私が「お父様、確かに無事だったんですけど、たった今抱き潰されそうです」と告げたのだが、ほぼ押し潰されているので私の声はお父様には届かなかった。アレクがそれに気づいてお父様に伝えると、ようやく開放してくれた。


お父様の謝罪を受けながら少し話したのだが、お父様とお母様はまだやることがあるらしく、すぐにどこかへ行ってしまった。


「それにしても、リティ様のネックレスは本当に素敵ですね。以前よりも輝いて見えるようです」


「そうだ、ずっと聞きたかったんだけど、アレク、このネックレスになにか魔法でもかけたの?なんだかこのネックレス、ずっと私達を護ってくれているみたいなのよね」


「それが……特になにもかけてないんだよな。そのネックレスのどこにそんな力があるのか、俺が聞きたいくらいなんだよ」


「あぁ、それなら簡単なことですよ。」


何故かイサベルが自信満々にそう呟くものだから、私とアレクはきょとんとして彼女を見つめる。イサベルはにこっと優しく微笑んだ。


「リティ様と殿下の想いがネックレスにも通じたんですよ。」


想い……?想いがネックレスに魔法をかけたとでも言いたいのだろうか。でもイサベルが言うなら、本当にそうなのかもしれない。というか、そんなに自信満々に言われてしまっては否定ができない。


本当に強いのは魔法でもなく呪いでもなく…想いそのものなのかもしれないのだということを、彼女が教えてくれたように思えた。


「……あの時、リティが炎に飲まれなくて本当によかった」


アレクがふと、思い出したかのようにそう呟く。本気で私を心配してくれていたのだろう。申し訳ないと思うと同時に笑みが溢れる。


「あら、私だってそう思ってたわよ?アレクが炎に飲まれなくてよかったって。リティシアの炎の壁に閉じ込められたのが私でよかったと思ってるわ」


「え、そ、そんなことがあったんですか!?」


イサベルががーんという効果音がつきそうなほど驚いていた。案の定アレクは私の発言が気に食わなかったらしく、眉を顰めている。


「リティ、よかったってお前な……」


「じゃぁ聞くけどアレク。貴方が私と同じ状況になって、無事に助かったら最初に言う可能性の高い台詞は何?」


「それは……」


悪いけど私にも策はあるのだ。アレクがなんと言おうか迷ってるところで、イサベルが勢いよく手をあげる。


「はい!私分かりました!」


「どうぞ、イサベルさん」


「『閉じ込められたのが俺でよかった』です!」


「はい、イサベルさんせいか〜い」


「それは……まぁ言うかもしれないけど……」


アレクは否定しきれずにはいたが、もごもごとどうにかこの状況を覆そうと口を開く。私がビシッと「かもじゃなくて言うのよ。」と言い切ると、彼はなんとも言えない表情をしていた。


「どう?これでも私の発言を責めれる?」


「うっ……確かに責められないかもしれない……」


「でしょ?…結局私達って考え方が似てるのよ。不思議よね。私達、全く違う場所で生まれて全く違う場所で育ったのに……そっくりだわ」


かつての故郷を思い出すように私は空を見上げる。先ほどまでの火事騒動など嘘のように晴れ渡っていた。


「リティ様と殿下はきっと、出会うべくして出会った……いわゆる運命ってやつなんですね、きっと」


「運命、ねぇ……」


私とアレクが出会うのが運命なら、私とイサベルが出会ったことも、きっと他の皆と出会ったことも運命として決められていたことになる。


確かにそこまでは決まっていたかもしれないけど……これからの人生は私が掴み取っていきたい。もう誰かの偽物を演じる必要もないし、自分の気持ちを隠す必要もないんだから。


「運命でもなんでもいいさ。俺が今こうしてリティと一緒にいられるんだから」


「……あのね、そういう台詞簡単に言わないでくれる?そういうのはね、こう……もっと色々あってから言う台詞なのよ。分かる?貴方の発言は貴重なんだからちゃんと考えてから言ってよね」


「リティ様、どこから目線なんですかそれ……」


あ、大変大変。推してた頃の発言がうっかり出てしまった……イサベルが不思議そうな顔してるし、アレクに至っては何言ってるんだこいつみたいな顔してる。気をつけなきゃ。


…それにしても、リティシアが復活したと聞いた時はどうなることかと思ったけど……今こうして笑えてるなら、アレクの言う通り運命でもなんでもいいわね。私達を出会わせてくれて、今この場所にいさせてくれるなら……なんだっていいわ。


「あれ?リティ、グレンは?」


「え……そういえばいないわね。どこ行ったのかしら」


「アーグレン様、どこに行かれたのでしょうか……」


パニックから落ち着きを取り戻し始めてきた屋敷の人々を観察してみたが、どうやら近くにはいないようだ。私達が会話をしている間にどこかへと消えてしまったらしい。


私かアレク、どちらかに何も言わずに消えるなんて相当な用に違いない。

一体何をしているのだろうか……。

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