第251話 悪女の力
確かに私が入れ替わってしまったことで空白の時間が生じたけど、もっと前に変えようとすれば未来はいくらでも変えられたはず…。
「偽物の分際でよくそんなことが言えるわね……貴女はつまり、全部私のせいだって言いたいんでしょ?」
「環境のせいもあるかもしれないけど、貴女自身が変わろうとしなかったからこの状況を招いていると言っているの。少しは自分の行動を振り返ってみたら?」
弱気な態度を見せれば絶対につけこまれる。もしそうなれば私が負け、悪役がこの世に残る結果になるかもしれない。そんな未来では深く考えなくともアレク達が危険に晒されるのは目に見えている。
幸いリティシアはまだ悪役の力を発揮しきれていないみたいだから、反省するまでどこかに……。
「あっそう……私の思い通りにならないのならもういらない。全て燃えてしまえばいいわ……リフレイア!」
その瞬間、リティシアの周辺に強い炎が燃え上がった。炎はリングを簡単に弾き飛ばし、アーグレンは高温に耐えきれず手を離し、私達はリティシアから距離を取る。
「何を……!」
「リティ様!あれを!」
イサベルが天井を指差し、私はその先を見つめる。そこには真っ赤な炎が走っており、徐々に木材を燃やしている様子が分かった。
…リティシアはこの屋敷ごと全て燃やすつもりなんだ。咄嗟に理解した私はイサベル、アーグレン、ルナに屋敷の人間を避難させるよう指示する。
恐らく悪役としての力を発揮してしまったリティシアの炎を、アレクの力だけで全て消し去ると考えたら時間がかかりすぎる。
消える前に全て燃え尽きると考えた方がずっと妥当だ。ならば、避難を真っ先に優先させるべきだろう。
三人の内、一番最後に部屋を飛び出そうとしたイサベルに、リティシアの魔の手が襲い掛かる。
「お前だけは絶対に燃やしてやる!」
「危ない!イサベル!」
私がイサベルを庇うように立ち塞がると、イサベルは「リティ様!?」と驚いたように声をあげる。私の力が悪役に適うとは思えないから、体を張って守るしかない。私は迫りくる業火に目を瞑った。
目を開くと、アレクが全力を尽くして自分の水魔法で炎を弾く様子が見えた。
「アレク!」
「……くっ、なんて力だ……!」
アレクはなんとか炎の軌道を変えることに成功したが、それは壁を破壊して大きな穴を開けてしまった。きっと悪役令嬢リティシアの力はこんなものではないだろう。
リティシアは表情を歪める私達の様子を見て高らかに笑った。
「アレク、その二人を庇わないと誓うなら貴方には攻撃しないけど?」
「そんなこと…誓うわけないだろ!リティシア嬢、早くこの炎を消せ!」
「いくらアレクの頼みでも嫌だわ。私の思い通りにならないものなんて全部消えてしまえばいいのよ」
リティシアの瞳の光は強く歪んでいた。小説でイサベルとアレクが見たリティシアはこんな見た目だったのだろうか。あんなに美しかったはずの彼女の瞳は、睨まれただけで竦んでしまうような恐ろしい瞳へと姿を変えていた。
「イサベル。行きなさい。周辺の皆を避難させたら自分も外に出るのよ。」
「リティ様、私もここで……」
「ダメよ。貴女の力は確かにリティシアを倒したけど、あの力をもう一度使えるとは限らない。それに、ここにいる限り一生リティシアに標的にされてしまうわ」
「リティ様。私……いえ、分かり……ました」
イサベルをここに残すわけにはいかない。彼女がここに残って戦いたいと言い出すのは分かっていたが、私は許すわけにはいかなかった。
アーグレンが素直に命令に頷いたのはきっとすぐに実行して戻ってくるつもりなのだろう。そしてイサベルも誘導が終われば戻ってきてしまう。それより早く決着をつけなければ、リティシアの脅威に巻き込んでしまうというわけだ。
「どこへ行くつもり!?」
イサベルを再び攻撃しようとしたリティシアの前に私は立ちはだかる。
「そっちこそどこへ行くつもり?貴女の相手は私よ。屋敷が燃え尽きるのが先か、貴女が負けるのが先か……勝負よ!」
私はリティシアを強く睨みつける。彼女は凍りつくような眼差しをこちらに向けてくる。
「アレク……なるべく屋敷に火が広がるのを抑えて!この家で水魔法を使えるのは貴方だけなの、お願い!」
「分かった!」
アレクの力で少し抑えてもらっている間にリティシアを倒せば炎は消えるはず……!私が決着を着けなければ!
アレクが部屋から飛び出そうとすると、リティシアはふわりと軽く跳躍した。
「待ちなさい」
彼女は私の背後に立つと、炎でできた短剣を私の喉元に突きつける。短剣には触れていないはずなのに、喉が焼けるような感覚を覚えた。
「……!」
「水魔法を使ってみなさい。その瞬間この女が灰になるわよ」
本気だ。リティシアは、本気で私を殺すつもりだ。もし私がここで死んだら……他の皆はどうなるのだろうか?
無事にリティシアを倒す確率はどの程度あるのだろうか…?
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