第9話 いざ、パーティへ
そしてあっという間にやってきたパーティ当日。
ルナは七年も仕えていたからか、どうやら意外と侍女の中で偉い立場にいるようで、私の髪飾りのセットやら肌の手入れやらを命令し、無理矢理他の侍女達に行わせていた。
相も変わらず垣間見える侍女達の傷に違和感を感じながら笑ってお礼を述べると侍女達はひっ、と分かりやすい怖がり方をし、さっさと仕事を終えると部屋を出ていってしまった。
今までは何を言っても表情を変えなかったのに、笑ってお礼を述べるだけで怖がるなんて…。
…悪役令嬢リティシアの笑顔恐るべし…。
「失礼ですね…お嬢様を見て怖がるだなんて」
「…まぁ、私の顔は悪役顔だから仕方ないわ」
「…悪役顔?」
「あぁ、気にしないで。それに…ルナ、貴女も最初はああだったじゃない。怖がりはしてなかったけど驚いたりしてたし」
ルナはそれを指摘されると「あぁ、そうでしたね、あの時は申し訳ありません。」と申し訳無さげに呟く。
まだルナと仲良くなって数十日しか経っていないけど…長い間私…リティシアに仕えていたからか、昔から友人だったような懐かしさを感じる。
…それは私ではなくこの身体が感じているのかもしれない。
…リティシア、今貴女はどこにいるの?
貴女がどう思うかは知らないけれど、私はアレクシスの幸せの為に動くわ。
貴女の身体を借りるのは申し訳ないけど…私は私の意思に従って動きたい。
私は誰にも見られぬように、軽く拳を握りしめ、改めて決意を固めていた。
屋敷の外に出ると、いつの間にか手配されていたらしい随分煌びやかな馬車が用意されていた。
明らかに公爵家のものではない。アレクシスの好意であろう。
扉には竜のような複雑な模様が刻まれており、エトワール国の紋章なのだろうと思った。
馬車の存在感に圧倒されて乗るのを躊躇いながらも、小窓からふかふかの座席が見え、乗り心地を確かめてみたくなる。
人生初の馬車に流行る気持ちを抑えて乗り込もうとすると、ルナが「お一人で行かれて本当に大丈夫ですか?」と心配そうに声をかけてくる。
実は先程ルナがパーティまで着いていき外で待っているなどと言い出したから流石に止めたのである。
北風も空気も冷たいし、風邪を引くことはどんなに防寒したとしても、避けることは難しいだろう。
パーティ会場の中は暖かいから問題ないけど外で待たせるのは気が引けるどころの話ではない。
平民も交えてのパーティであり、身分関係なく入れる場所であるはずなのに、何故だかルナは頑なにパーティ会場へ入ることを拒んだ。
理由を聞くと、社交界がとてつもなく嫌いなのだそうだ。嫌がるのに無理やり連れて行くわけにはいかないし、かといって待たせる訳にもいかない。よって彼女には留守番をお願いしたのだった。
ルナに「平気よ」と伝えたが、未だ不安そうな目を向けてくる。
まぁその気持ちは分からなくもない。今までリティシアが出たパーティは最悪の結末を辿っていたからだ。令嬢とのトラブル、使用人とのトラブルなど、その数は計り知れない。
おかげで招待状の数も次第に減り、パーティに行く回数も日に日に減っていたようだ。
だが、本人はパーティは自分を魅せる場所ではなく他人の妨害をするものと考えていた為気にしておらず、代わりに使用人達の妨害をすることでストレス発散をしていたようだ。
知れば知るほどとんでもないやつね。
ちなみに、毎年開かれる王家主催のパーティには一度も出ていなかったが、アレクシスの婚約者であるということで毎度大目に見られていたようだ。
パーティの話題を一度もアレクシスが出さなかった理由は、リティシアが平民まで招待されるというのが気に入らず、王家のパーティが近づく度にアレクシスの訪問を全部ガン無視してたことと、アレクシス本人が出たくなかったからというものであった。
正確に言えば、話題を出さなかったというか出せなかったという方が正しいかもしれない。
王家主催なのに王子がいない謎のパーティは割と多く開かれていたが、アレクシスが多忙であるという理由で今まで通っていたようだ。
つまり今回のパーティは王子がようやくやってくるという事で、皆彼の姿を一目見ようと張り切っているようだ。
「リティシア=ブロンド様、馬車はお城の前にお止めしてよろしいでしょうか?それからお帰りの際は王子殿下か、我々にお声がけください。」
「えぇ、それでいいわ。ありがとう。」
馬車から降りたら、波乱のパーティの幕開けだ。
…どうも平和に終われる気がしない予感がするのよね。
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