第6話 気づいたこと

 それからパーティまでの数週間をリティシアとして過ごしてみて、いくつか分かったことがある。


 一つは、リティシアは相当使用人に嫌われているということ。


 嫌われていると言っても、無視するとかはしなくて、怯えながら挨拶をしてくる。無視したらリティシアに怒鳴られていたんでしょうね。


 中でも私の侍女に抜擢された数人だけは慣れているのか真顔を保ち、感情を現さなかった。


 ルナは傷を指摘したその時だけ、動揺を見せたが、それ以外は私が何を語っても特にこれといった反応は見せなかった。


 相当警戒されているみたい。当たり前だけど、まだまだ仲良くなるには程遠いようね。

 そしてもう一つ、ルナの腕の傷は、ルナだけじゃないということ。


 同じような傷が、使用人のあらゆる箇所に見られる。


 それは首だったり、手首だったり、個人によって様々だが、明らかに自分がやったものではない。見たところ、外部からの攻撃による傷だった。


 …どうしてかは分からないけど…絶対何があるはずよね。これはいつか分かることかな。

 そして食事だけど、意外なことにちゃんとしたものが出た。


 キッチンから聞こえてきた使用人の声で判明したのだが、リティシアはどうもトマトが大嫌いらしい。これは私の勝手な予想だけど、自分の髪の色と似てるから嫌いなのかな…。


 そして、リティシアの嫌いなトマトを誤って出してしまうと、食器という食器をひっくり返し、それだけに留まらずキッチンを荒らしまわり、両親に使用人を減給するように言いつけたりと嫌がらせをされるんだそうだ。


 だからシェフを含めた使用人達はリティシアの嫌いなものを出さないように命をかけていると言っても過言ではない。…トマト以外も嫌いなものは沢山ありそうだし大変そうよね。偏見だけど。


 …私はトマト別に好きでも嫌いでもないんだけどな…まぁ出ても出なくてもいいか。


 ちなみにリティシアがそんなミスを犯した使用人をクビにしない理由は、自分の目で届くところで監視してたっぷりいたぶりたいかららしい。全く性格の悪いお嬢様ね。


 でもそんな最悪なお嬢様も今は一人なんだからトマトくらい出してやればいいのにね。告げ口されて減給の心配もないし…まぁそれ以上にリティシアが面倒くさいのね。


 そしてもっと重要なのは、今バカンスに行っている両親の影響だと思う。リティシアの気が変わってクビにするように告げ口されたら終わりだものね。


 あと最も気になるのは私…リティシアの呼び方。一応公爵家だから公女様、とかでも正しい呼び方なはずなんだけど、私のことはあくまで「リティシア様」と呼ぶ。


 それもルナを除く全員がそう呼んでいるから不思議なものよね。別に私は呼び方なんて気にしなかったんだけど、ルナが私を違う呼び方で呼ぶから…嫌でも気にせざるを得なかった。


 彼女だけが、私を「お嬢様」と呼ぶ。


 どうして彼女だけが私をお嬢様と呼ぶのかは全く分からないけれど…絶対に何かあると私は睨んでいる。


 …まぁ、数週間過ごしたくらいじゃ特に何も収穫はないわね。


 それからスマホとか手軽に暇を潰せるアイテムがこの世界にはないから、私は書斎で本を読むことで殆どの時間を過ごしていた。


 本を読めば、この世界のことも調べられるしね。


 この世界には、魔力が存在する。


 それに伴い、魔法も存在する。


 魔力が強ければ強いほど沢山威力の高い魔法が使えるし、弱ければ殆ど使えない。


 魔法といっても空を飛べるとかコップを浮かすとかの魔法ではなく、一般的には戦争とか悪戯に使う攻撃魔法が主流みたいね。


 属性は、火、水、氷、風、土、雷、光、闇…この本に記載されているのはこのくらいかしらね。


 まだあるかもしれないけど、今のところ存在すると言われているのはこれくらい。


 そして私、リティシアが得意とする魔法は火。


 この髪色に相応しい魔法だと言わざるを得ない。


 どの魔法を使うか本人が決めることは出来ず、その家柄や、なにかの偶然で生まれ持った、など先天的なものによって決まるらしい。


 …厳密に言えば、後天的にも可能みたいだけど、その道の才能がない人がやろうとしたらすっごい修行が必要みたい。


 …言葉にするのも恐ろしいぐらいすっごい修行である…ってこの本に書いてある。…実は細かく書いてないのよね。


 ちなみに、光と闇の魔力は存在が認知されているものの、それが使用されていたのは何千年も昔の全世界を巻き込んだ大戦争の話であり、現在使用できる者は現れていない。


 力が強すぎる故に封印されたのだと推測する者もあれば、どこかの一族が隠し持っているだけだと推測する者もいて、実際のところは全然分かっていないらしい。


 …何も分かってないのに分かったふりをするのはどこの世界も同じなのね。

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