地図


「いえその、美弥さんが通り魔に襲われたと聞いたので、お見舞いに」


 そう言う前田に、とりあえず、礼を言ったが、


「でも、あれ、通り魔かどうかもよくわからないし、刺されたのも私じゃないんですよね」

と付け加える。


「新聞で見ましたよ。

 刺された方、大丈夫でした?」


「ええ、ピンピンしてますけど、危うく私がトドメを刺すところでした」


 そう微笑んで言うと、彼は不思議そうな顔をしていた。


 それは? と前田は美弥の手許を見て問う。


「ああ、もし、通り魔だったとしたら、私が狙われた理由はなんなのかなと思いまして。


 とりあえず、昨日一日の行動を書き出してみたんです」

と地図の形式になっているそれをペン先で示した。


 前田はそれを見ながら言った。


「……でも、通り魔って、通りすがりにやるから通り魔なんじゃないんですか?」


「そう思ってたんですけど、この人が言うには、どうも最初から私を狙ってたみたいなんで」

と美弥は浩太を手で示す。


 前田さん? と呼びかけると、食い入るように地図を見ていた前田は、ようやく身を起こした。


 美弥さん、とあの象のような目に真摯な光を宿し、こちらを見る。


「気をつけてくださいね。

 もしかして、また狙われるかもしれないし」


「そうですね。

 やり損ねたわけですし……。


 あ、じゃあ、私が囮になればいいのかな」


 思わずそう言うと、

「とんでもない!」

と前田は凄い勢いで叫んだ。


 思わず身を引いた美弥の手を取り言う。


「あんまり莫迦なこと考えないでください。

 きっと犯人は捕まりますからっ」


「は……はあ」


 美弥がその迫力に押されているうちに、それではっと出て行ってしまう。


 茫然と見送っていた美弥の横で、

「なんというか。

 面白い人だねえ……」

と浩太が呟いていた。




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