七年前の真相1

 

「浩太、訴えられたの? めずらし」


「いやあ、いっつも物言いには気をつけてるつもりなんだけどね。

 ちょっと口が滑っちゃって」


「あの方は厄介なんですよ。

 マダム仲間の間でも、要注意だって評判なんですから」


 圭吾は職業柄、そういうことには詳しいようだった。


「今まではうまくやってたんだけどね。

 疲れてんのかな、僕」

と浩太はおのれの膝の上で頬杖をつく。


「ちょっと休んだら?

 なんか瞑想の旅に出るとか言って」


 迷走? と浩太は笑うが、美弥は、笑えなかった。


「それより美弥ちゃん、夕べ大変だったんだって?」

「……誰に訊いたの?」


「叶一さんです」

と浩太の代わりに圭吾が答える。


「あれ? あの人事務所に居たの?」


「居ましたよ。

 何処に行くのかと、大輔さんにしつこく訊いてました」


「また、あの人も妙なところに、こだわるわねえ」


「自分だけ除け者にされてる気がして、面白くなかったんじゃないですか?」


「こっちは気を使ってそうしたつもりだったんだけど。


 いいわ。

 大輔は何も言わないだろうから、後で私から言っておく」


 そういえば、昨日はそれどころではなくて、その件に関しては、うやむやになったままだった。


 別に隠そうとか誤魔化そうとか思ったわけではないのだが、叶一はそう受け取ったのだろうか。


 しかし、そこで、夕べの倫子とのやりとりを思い出し、美弥は肘掛に伏せ、がっくりと項垂れる。


「でも、それは倫子さんが迂闊うかつでしたね」


 倫子との話を聞いた圭吾の言葉に美弥は顔を上げた。


「なんでよ?」

「だって、私、知ってましたよ」


「へ?」

「あの叶一さんが自首する前の態度見てたら、だいたい」


「僕も知ってた。

 気づかれてないと思ってんの。

 美弥ちゃんだけだと思う」


 な、なんで? と美弥は身を乗り出す。


「だいたい見てればわかるじゃない。


 例えばこう、ソファに座ってても、大輔とは距離があるけど、叶一さんとは、べったり側に座ってるじゃない。


 しゃべってても、よく手とか触れるし。

 あれって、無意識でしょ?


 全然、叶一さんには警戒心ないんだよね」


 そうか。

 そう言われれば、そうかもな、と美弥は気づく。


「なんとなくわかるんですよね。

 龍泉さんと美咲さんとか」


「えっ!? あの二人ってそうなの?


 龍泉さんめっ!

 それなのに、美咲さんを放っとくとかっ」


「……君、人のこと言えるの?」

と浩太に冷たく言われ、うっ、と詰まる。


「いや、うちはもう今はそんなことないし……」


「ずっと言うまいかと思ってたんですけどね」


 そのいつもより更に重々しい圭吾の口調に、美弥は思わず肘掛を強く掴んでいた。


「七年前の事件の真相ですけど」


 安達先生、と溜息混じりに浩太は止めたいような素振りを見せた。


 だが、チラと見た圭吾に、浩太は肩をすくめ、おとなしくソファに背を預ける。


「貴方の推理も正しいと思うんです。

 叶一さんは家族が欲しかったうんぬん。


 でもね、ほんとのほんとのところは違うんじゃないですか? 

 倫子さんも途中まではわかっていたようですが」


 え―― 何が……?


「隆利氏の、会長のあの言葉が悪かったと思うんです。


 早く孫の顔でも見せてくれって言う。


 叶一さんが何が一番癇に障ったかって、あれでしょう。


 あの言葉があったから、あんた、なんにもわかってないという想いに拍車がかかったわけなんですよね」




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