蒼天の弓 ~図書室の怪談Ⅱ~
櫻井彰斗(菱沼あゆ・あゆみん)
第一章 皆さん、お元気ですか?
近衛美弥からの手紙
みなさん、お元気ですか?
あの小学校のときの事件から、十数年、私もすっかり大人になりました。
でも、大人というのは、自分で自分の食い扶持を稼げる人間のことだと、父や
大学を出て、探偵事務所を設立したものの、経営は軌道に乗らず、この事務所だって、義父
大輔は反対したけど、そのくらいのことはしてもらわないと。
だって、あの人には私たち、そのくらいの貸しがあるんだから――。
割と近くに事務所を構えてる
此処も建物は古いけど繁華街で、なかなか悪くありません。
そうそう、浩太はもうほとんど未来を見る力はなくなっちゃったんですけど、その僅かな力を頼りに、インチキ霊能者をやっています。
いや、そもそもさ、霊能者じゃないじゃん、という私の突っ込みは無視して、浩太は、あの頃あんなに嫌がってたくせに、今は力がないことに、不満たらたら。
ま、それもそれだけ相談者に対して、真剣だからなんだろうと思うと、可愛らしくもあるのですが。
大輔はというと、そんな浩太に手を貸してやればいいのに、そういう意味では知らん振り。
こいつはまだいろいろ見えてるんじゃないかと思うんだけど――。
でも、浩太の依頼に応じて、相談者の事前調査は手伝っています。
浩太のところは、口コミで広まった完全予約制の事務所なので、予約があってから、大輔が依頼人について調査するシステム。
そうして知った依頼人の現在の状況を浩太が、さも今見えたと言わんばかりに、しゃべるわけですね。
はっきり言って、『詐欺』――
なんですけど、潔癖症の大輔がそれを手伝っているのは、ただ、事務所の経営が苦しいからだけじゃなくて、浩太の言葉に救われる依頼人がたくさん居ると気づいたからです。
浩太がたいした罪の意識も感じず、こんな綱渡りをやってられるのも、たぶん、自分でもそのことがわかっているから。
三根さんは苦い顔してますけどね。
さて、浩太のとこだけでなく、うちもかなり綱渡りなんですけど、この度ようやくまともな依頼人がやってまいりました。
果たして、大輔はようやく腕を揮えるのか。
不本意ながらも我が夫である、
とりあえず私は、珈琲はもうたくさん、という依頼人で、営業マンの前田さんのために、おいしい紅茶を淹れてみます。
近衛美弥
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