8-②

 すると、その男は少しポカンとした後、ドッと笑った。

「ハハハ!面白い冗談をいう人だ。まさか私が先ほど捕まったヤツと同じだとでもいうのかね?」


 その堂々と自信に満ちた立ち振る舞い…私は彼のことを見誤っていたと感じた。彼は私の想像した、ただのかまってちゃんではなかった…彼は、『ハイニナルクエスト』の正真正銘、筋金入りのファンだったのだ!!


 あのメッセージも、ファンとしての熱い気持ちが溢れ出たものだと考えれば、ハイになるのも納得がいく。ただ、残念なのは好きという気持ちが、ついつい行き過ぎてしまったことだろう…こんな蛮行に及ぶことになってしまうとは…


 私は出会う場所が異なれば、きっと親友になれたであろう彼に対して、こう語った。

「いいえ…あなたは先ほどのような者とは違う。自身の犯行を予告し、ただ世間の注目を集めたい、それだけを目的としたかまってちゃんとはね。」


「なんだと…?」

 その言葉を聞き、男は真顔になった。


「先ほどの事件はあなたにとって、好都合でしたね。この場にいるスタッフ、警察、観客の目が全てバカな彼に向いてくれたのですから。

 本来であれば、あなたはこれで易々と目的のものをゲットすることが出来るはずだった…」


 しかし、私はここで一呼吸おくと、彼を指差し、堂々とこう言い放ったのであった。

「私という名探偵が、この場にいさえしなければね!最初からあなたがこちらを狙っていたのはお見通しだったんですよ!!!」


 ビシッとしたこの指摘に、彼は驚きを隠せない様子で私のことをジッと見つめていた。

 なるほど…彼もいままでは『アルコバレーノ』だけに目がいってしまい、視野が狭くなっていたのだろう…私が指摘したことで、ようやくこの素晴らしいコスプレを見る余裕ができ、彼も私が筋金入りのファンであることにようやく気がついたのだ…


 さぁ!こい!

 私はいつでもサインをする準備ができている!


 だが…いつまでたってもその瞬間は訪れず…その男は肩を震わせながら、ククク…と笑いを堪えきれない様子でこう言った。

「先ほど怪盗クロウの偽物が現れ、浅型警部がそちらを逮捕してしまった時には、正直今回は拍子抜けだと思ったものだったが…まさかこんな所で、こんなへんちくりんな格好をしたものが儂の正体を見抜くとは。人は見かけによらないもの…とはよく言ったものだな。」


 そして、彼は自分自身の顔をガッと掴むと、一息にを脱ぎ捨て、こう叫んだ!!

「よくぞ見破った!!!名探偵!!その通り!儂こそが怪盗クロウである!!!」


 私の目は点になった。

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