第8話:探偵、対峙する

8-①

「!ヤツが闇夜の狩人か!」

 私の名探偵としてのカンが、この男こそ闇夜の狩人で間違いないと言っていた。


 その恰幅のよい男は、高級そうなスーツを着て展示場スタッフに目線で威圧感を与えつつ、ゆっくりと『アルコバレーノ』へと歩みを進めていた。その姿は、なにも知らない人が見れば、百貨店のオーナーだと勘違いしてしまうことだろう…


「だが…残念ながら私の目はごまかせない。『アルコバレーノ』を奪わせてたまるか!」


 記念撮影のために何日も準備を重ね、早朝5時から前泊までして整理券を入手し、『アッシュ』の完璧なコスプレまでしてこの場にようやくたどり着いた私の最高の一日を、何があっても邪魔させる訳にはいかない。


 私はその男と『アルコバレーノ』の間へと割り込むと、静かにこう告げるのであった。

「残念ながら、そこまでですよ…」


………


「いったいキミは何者かね?」

 するとその男は不機嫌そうな顔で、私を睨んできた。その姿は、闇夜の狩人だとわかっている私でもまるで本物のオーナーだと勘違いしそうな、それほどの威圧感を持っていた。


 だが、今日の私は『アッシュ』なのだ。そのような視線に臆する私ではない。

 かぶっていた緑のとんがり帽子を脱ぎ、長時間圧縮されてペッタリとなってしまっていた髪をザッとかきあげ、寝不足で充血した目で、彼の不躾な視線を真正面からしっかりと受け止めながら、私なりに紳士的な態度でこう答えた。


「私ですか?私の名前は明智耕助…しがないただの探偵ですよ…闇に紛れて獲物を狙う狩人を捕らえることしかできないだけのね…!」

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