第2話:オーナー、奇策を練る

2-①

 怪盗クロウとは、世界を股にかけて活躍している現在大人気の怪盗である。


 変装の名手で神出鬼没、芸術的な手口で警察のあらゆる包囲網も易々と破り、宝石や美術品を盗み出す。彼に狙われて盗み出せなかったものは、これまでただのひとつとして存在しない…そんな彼のことを、人々は新時代のルパンと呼んだ。


 怪盗クロウには、犯行を実行するに当たって、ルールが二つあった。

 一つは、犯行を実行する一週間以上前に必ず予告状を送付するというものだ。そして、もう一つは、犯行に当たって、決して血を流さないことだ。

 厳重な警備をわざとしかせ、その上で獲物を鮮やかに盗み出すことにこだわりを持つ一方で、他人を傷つける強盗のような手段を彼は良しとしなかった。


 そういったポリシーに共感する者も多く、予告状が送られると、いつも大いにニュースとなっていた。


 だが、人気がある怪盗には、模倣犯も数多く存在するものだ。模倣犯の多くは、彼のポリシーなどお構いなく、他人を傷つけることも厭わずに、ただただ暴力的に犯行に及んでいた。


 怪盗クロウは自身の美学を汚す、こういった犯行が許せなかった。そこで、怪盗クロウは、自身が本物であるということを証明するために、1つの細工を予告状に施すようになった。

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