嫉妬

シオン

嫉妬

 放課後の教室に足を運ぶと、そこには京子が椅子に座って校庭を眺めていた。他の生徒は誰一人おらず、ここには僕と京子だけがいた。


 今ここに来たのは京子に呼ばれたからだ。大事な話があると言われ、僕は少し期待してこの時間を待った。京子とは幼馴染みで、身体の弱い京子をよく世話をしていた。善意からの行動ではない。京子には個人的好意を抱いていて、言ってしまえば下心があったから今まで付き合っていたのだ。


 そんな京子に呼ばれたのだから期待せずにはいられない。京子は僕が来たことに気づくと微笑んで椅子から立ち上がった。


「ごめんね急に呼び出して」


「大丈夫だよ、特に予定もなかったし」


「本当に?誰かと予定があったんじゃないの?」


「例えば女子とか」


 京子がそう言ったとき、何となく悪寒がした。穏やかなのに、どこか彼女は不機嫌に感じたからだ。


「べ、別にそんな人いないよっ」


「嘘、あなた蓮って人と仲が良いじゃない」


 そう言われ思い出す。確かに蓮という女子とはたまに話すが、好意を抱くほどじゃなかった。なぜ京子がそんなことを気にするのか僕には理解できなかった。


「誤解だよ、蓮とは何もないよ」


「嘘、嘘、嘘。そんなの嘘だよ。私みたいな身体の弱い女より活発で元気の良い娘の方が良いに決まっている!」


 誰もいない教室で、彼女の叫び声だけが木霊する。僕は彼女からの誘いに期待して来たのに、なぜこんなことになってしまったのだろう。


「私、あなたが好き。いつも気遣ってくれて優しいあなたが好き」


「ぼ、僕も」


 僕も好きだ、と言おうと思ったらその声は遮られ、彼女の言葉は続いた。


「だけど、私はあなたの理想に思える女になれない。身体が弱いから必ずあなたに迷惑をけるし、いつかあなたがどこかに行きそうで怖くて怖くて仕方ないの」


 京子は泣きそうだった。僕は善かれと思って彼女の力になっていたけど、彼女は密かに悩んでいたのだ。そんなことに気付かずにいたことを恥ずかしく思う。

 彼女はこちらに駆け寄ってきた。僕は思わず抱き止めるが、そのとき腹部に鋭い痛みを感じた。


「だから、あなたと一緒に死ぬことにしたの。あなたが仮に私を受け入れてくれても、いつか死が二人を分かつわ。そんなの耐えられない。だから、あなたの最期を看取って、後を追うわ」


 僕は痛みに耐えられなくなり、立つこともできず倒れてしまう。彼女はそんな僕を見下ろすように膝をついて僕の頭を支えた。


「ごめんね、こんなことしかできなくて。本当はあなたもこんな結末望んでいないことは分かっていた。けど私は、こんな手段でしかあなたを繋ぎ止めることができなかった」


 許して。それを彼女は言い残してポケットから何か錠剤のようなものを取り出して口に含んだ。


「あなたを決して一人にはしないわ。だから、あの世で二人で愛し合いましょう?」


 そうして京子は意識を失って僕の身体の上に倒れた。僕もそろそろ限界だった。


 好きだったのに。好きだったのにどうしてこうなったのだろう。僕は己の運命を呪いながら意識を手放した。


おわり

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嫉妬 シオン @HBC46

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