第6話 将来の癌となるか良薬となるか、若手議員。

 いよいよ、開票前日を迎え、各候補者は最後のお願いに疾走していた、となる処、今回ばかりは状況が違っていた。各候補は、決選投票に向けて、早くも議員票獲得に凌ぎを削っていた。派閥選挙と揶揄される中、今回、議員の考えを尊重し、自由に候補者を選択できる新たな試みを地民党は行っていた。元総理の福神漬赳夫を祖父に持つ福神漬達夫が率いる地民党の若手議員が、党改革を掲げて結成した「党風一新の会」。重鎮たちは、「馬鹿なことを」と思いながら「若気の至りよ」と飲み込む余裕を見せていた。若手議員は、重鎮たちの気が変わらない内にと挙って人気があり、年齢も近い総裁選びに高揚を隠せず勇み足宜しく、早々に投票を済ませていた。後は、結果を見守るだけ。マスゴミが作り出したフェイクに踊らされ、形ばかりの総裁選だと薄氷の安堵の上に胡坐をかいているのに気づけないでいた。

  

 甲子園には魔物が棲んでいる、選挙にも魔物が棲んでいる。


 若手議員の思惑通り、総裁選当初は党の改革のリーダーと押していた昆布田郎が議員票・党員・党友会の票を勢いよく獲得し、圧勝ムードに包まれていた。ライバルは岸大根不三夫のみ。岸大根の票は、議員票は兎も角、党員・党友会の票は伸びないとの予想通り、革新的に伸びる様相は微塵にも感じられない。マスゴミは、昆布田郎の過半数獲得を確信した報道をお花畑の国民に刷り込もうと連日連夜、繰り返していた。


 そこへ、地民党員支持率1%の高菜茶苗が参戦する。この総裁選には是正しなければならないからくりがあった。党員・党友会の名簿が配布されるのは公示日。しかし、派閥に所属する候補者は前回の名簿で活動できる点だ。派閥に属さない高菜茶苗候補は、知名度の低さと党員・党友会への取り組みに大きく遅れを取る事になった。しかし、高菜候補は、苦戦は覚悟。真摯に向き合い支援者を獲得する棘の道を敢えて選んでも今回の総裁選への意気込みを顕にしていた。

 

 妖怪・煮貝幹事長追い出しに貢献した岸田大根は煮貝派の恨みを買い、岸田大根のライバルである昆布への支持を臭わせていた。

 決起集会を報じる画面を見て、地民党員は驚愕した。高菜の推薦人が本人出席と代理人、浮動票のオンラインを含めて推薦人に必要な20人を大幅に超え、73人とも93人とも思われる支持を集めていたからだ。

 昆布陣営は驚きを隠せないでいた。が、事前に手に入れていた名簿やこれまでの取り込みの効力を削ぐものではなかった。飽くまでも敵は、岸田大根一人。昆布陣営とその支持者は、高菜候補を気にも留めないでいた。新たに野沢菜西湖の参戦があり、候補者が4人になったが動向に変化はなかった。


 候補者4人が呼ばれ、各マスゴミの主催する討論会が行われた。昆布候補の過半数確実という偏向報道の中でだ。回数を重ねるたびに討論会と言う媚薬が各候補者の本音を炙り出していく。マスゴミの推す昆布候補者以外には、露骨な地民党の抱える闇の質問がこれでもかと浴びせられた。そこで、決定的な失態を岸田大根は犯してしまう。安倍川餅前総理の問題を蒸し返す約束をしてしまう。これに激怒した安倍川餅は表立って高菜の支持を表明し、動き始める。

 マスゴミの昆布推し一辺倒に不信感を抱くネット民は、真実を探り始める。そして昆布一家が中酷企業と結託し、利権を貪っている事実を突き止める。昆布候補が総理になれば、中酷への尖閣・魚業権の侵害・土地取得による日本支配・TTP参加、いま、世界が注目する新疆ウイグル地区での人権問題に物言えぬどころか擁護し、西側諸国との関係を悪化させ、経済は破綻し、技術は盗まれ、移民が押し寄せ、事実上乗っ取られるのは火を見るよりも明らかなことを炙り出した。さらに昆布候補は、年金問題を消費税で賄う案で支持を得ていたが、他の候補から消費税が幾らになるかを問われても答えられずにいた。

 今は、武漢ウイルスの発祥の地を地道な捜査と根拠と専門的な知識、関わった者たちの交わしたメールや論文発表の数々の点を線にし、ネット民が解明する時代。それらネット民や経済に詳しい者たちの算出によれば、消費税が20~23%に上る事が判明した。これには昆布候補を支持していた当落ギリギリの議員は勿論、重鎮たちも怒りを顕にした。そもそも、年金を消費税で補う案は黒歴史を作った立憲民主党の前身である民主党が提案し、こともあろうか昆布候補の政界の師である麻草副総理が消費税を算出しメッキを剥して廃案に追い込んだものだった。

 麻草副総理も最早、開いた口が塞がらないでは済まず、出来る事なら、関係性を消し去りたいとの思いだった。さらに、防衛論争では、防衛大臣を務めたにも関わらず、攻撃してくる基地を攻撃するのではなく、話し合いでというお花畑さを披露する嵌めに。これには他の候補も呆れた様子を隠せないでいた。

 さらにさらに、2千年継承してきた天皇の継承問題を否定する案を述べ、多くの地民党議員・党員・党友会の失望を買った。

 論戦が続き、昆布候補の本質が世に暴露され、国民や議員の反発を受けるにつれ、会社の運営が危ぶまれるマスゴミの態度も圧勝から決選投票へと移行していった。さらに、何も考えず早々に昆布支持を打ち出した「党風一新の会」の一部の議員の中には、困惑を隠せず、自らの進退の危うさを実感し、小便を漏らす思いで眠りにつく者も少なくなかった。

 そこへ、本性を現した昆布候補が万が一でも総理になれば党自体が滅びてしまうと確信した安倍川餅元総理は、なりふり構わず積極的に各議員に高菜支持、でなければ昆布候補の支持に回れば最悪なシナリオが待っていることを説いて回った。


 第一回投開票日を間近に魔物たちの正体が顕になり、闘いの構図が明らかになってきた。マスゴミや中酷・缶酷が推す昆布候補の一回目での過半数獲得は100%無理なことが明らかになる。昆布候補支持者は一転して、安定した地位を失い、路頭に迷う嵌めに。そう、敗軍の属・呼ばわり状態に置かれた。求心力を失った昆布候補者から支持者が夜逃げのように顔で笑って、まだ大丈夫、最後まで頑張りましょう、と言いながら、荷物をまとめ、鞍替えを模索していた。昆布候補の衰退は、来たる選挙で自らの党の評判を落とすものであり、中酷資本で牛耳られている事実を一切報道しないマスゴミがいざ、衆議院議員選挙になると掌返しで批判し選挙妨害をしてくることは、明らかであり、自ら進んで自爆テロ用の爆弾を抱え込むなど恐ろしくてできないでいる支持者が多く出た。そこへ、甘党利と安倍川餅が手を組み、甘党利が麻草に理解を求める為に話し合いの場を持ったニュースが流れた。この時点で、決選投票が昆布vs岸大根、昆布vs高菜となった場合、投票獲得数三位と二位が手を結ぶことが確定し、ここでもまた100%昆布候補の総理総裁の芽は摘み取られたを如実にした。


 各候補者は最後の最後まで支持を得る為、各議員のもとに訪れていた。党員・党友会の票は、決選投票になれば47票となり、383票の中で重要視するものではなかった。ただ、疑念が噴出した。幾ら人気があるとはいえ、党員・党友会の票が一点に集中し、余りにも早く投票されたことにだ。アメリカ大統領選で起きた不可解な票の動きがここ日本の総裁選にも起きているのではないかとの疑念だ。党員・党友会の票は不正防止に党員手続きを終えた登録後二年後に投票できることになっている。しかし、アメリカ大統領選でもあったようにネットに投票用紙が売りに出されたり、偽造も簡単であることから投票用紙事態の偽造が疑われ、同じ党員・党友会の者に複数の投票用紙が送られてきた事実も発覚している。中酷資本は長年に渡り日本に浸透し、工作を行い、党員・党友会の年会費を肩代わりし、投票権利を既に多く獲得している可能性も拭えない事実として懸念され、話題にあがるようになっていた。


 高菜陣営と岸大根陣営が手を結んだ。アメリカ大統領選で起きた謎のバイデンジャンプ現象が起きない限り、昆布候補の脱落が決定した。

 高菜が二位通過した場合、岸大根陣営は困惑する。タカ派な政策と相いれず昆布陣営に流れる恐れが拭いきれないでいた。

 感情と風評に流され昆布を支持していた党風一新の会の議員主催の討論会が進められる中、明確な意見と優柔不断の返答に興醒めし、昆布候補や岸大根の主張が高菜候補の論理的な意見に寄り添っているの感じていた。

 幾多の選挙を経験する安倍川餅は、万が一を考え、昆布派に流れるかもしれない岸大根陣営の票の6割確保に動いていた。そこへ、昆布候補が組み易しと考える高菜候補に票を流しているという不確かな情報が流れ、それを苛立ちながら昆布候補は否定した。

 また、煮貝派は、勝ち目のない昆布を支持できない。かといって、自分を没落させる岸大根をも支持できない。しかし、そこは、妖怪だ。自分への非礼を謝るならと岸大根の懐に入る事も考えられなくはない。ウルトラCではあるが、開票日に高菜を推し、昆布vs高菜の構図を作り、決選投票で中酷指示の昆布に移る事も考えられないでもない。勝ち馬に乗ろうと暗躍し、状況を見極め生き残りに必死な妖怪からは目を離せない。


 昆布田郎の携帯電話が鳴った。麻草副総理からだった。こんな時にと思いつつ、緊急性があると感じ、急いで向かった。部屋に入ると麻草副総理は、椅子にそっくり返るようにして昆布を迎えた。


 「忙しい時に済まんな」

 「閣下、状況が状況だけに追い込みたいのですが」

 「まぁ、落ち着け」

 「…」

 「言ったろう、やるなら勝てと」

 「だからこそ、今」

 「バカ者!」

 

 昆布は凍り付いた。


 「参戦してどうだった。けつの毛まで晒して。煮貝が何故、外された。今度は、お前か!俺の顔に泥を塗るのか!まぁ、いい、俺はその泥を洗えば済む。しかし、お前は違うぞ」

 「…」

 「さっき、安倍川餅と話し、手を組んだとの知らせを受けたは、甘党利からな」

 「えっ」

 「これで、お前は終わりだ」

 「閣下、見捨てないでください、閣下」

 「知らん」

 「閣下」

 

 昆布には、麻草副総理の顔が閻魔大王に見えた。一部の望みを抱きながらも今後の自分への風向きや待遇に逃げ出したい思いが襲い掛かってきた。膝ががくがくと震え、崩れ落ちていく。片膝を突き、両膝を突き、頭を垂れた。


 「閣下、助けて下さい」

 「そこまでするからには、覚悟はあるのだな」

 「どのような覚悟も」

 「そうか…」


 麻草副総理は、背中を向け、思案していた。暫くして、重い口を開いた。その間、昆布は自らの選対から票が伸び悩んでいる事や既に投票した党員・党友会の方からの投票取り消しが出来ないかの問い合わせが後が絶たない現実を思い起こしていた。


 「辞退しろ」

 「えっ」

 「出来ないか?出来ないわな、今更」

 「…」

 「なら、もう、動くな、足掻くな、流れに任せ、散る事よ」

 「…それでは私を信じ、支持してくれた方々に申し訳が」

 「まだ、分からないのか!このまま、敗者になれば、その者たちにも冷や飯を食わせることになるのを」

 「しかし…」

 「好きにしろ、おお、これは何度目かな」

 「…」

 「仏の顔も三度撫でれば腹立てる、だ」

 「…」

 「もう、下がっていい」

 「閣下…」


 昆布田郎は、温かい帰れる家を失った。親と呼ぶべき人に我儘を言って、出た総裁選挙。中酷の後ろ盾でマスゴミや党員・党友会の票を獲得し、改革の名のもとに馬鹿な新人議員を焚きつけ、支持を得てきた。しかし、その新人でさへ、催眠術が解けるようにそっぽを向かれる始末。もう、終わりか?私は、石葉になるのか…。小松菜駿豆労も重鎮の怒りを買い、客寄せパンダだけの存在か。


 派閥選挙を避けていた各派閥の活動が激しさを増してきた。決選投票になれば、派閥の統一した意見が通る。表上は、自由であっても。煮貝幹事長がマスゴミに問われ、派閥にいる限りその意見に従うべきだ。自分の意見を通したいなら、派閥から出て行けばいいだけだ、と言い放った。

 派閥が主導権を握れば、来たる衆議院議員選挙、参議院選挙の「顔」として相応しいのは誰か、が論点になるのは否めない。どのような、クライマックスを迎えるか総裁選からは益々、目が離せなくなってきていた。

 ただ言えることは、自己保身を真剣に考えれば、また、マスゴミと中酷・缶酷が敵視する候補が一番、最適であることは明らかなのだが…。

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