~回想~ 入れ替わって

ユイの身体になったアズサは不思議な感覚をずっと味わっていた。そもそも自分でない人間が自分の意思で動いているのが不思議であった。

原理は知らないが、体が変わった今でもアズサは魔法を今まで通り使うことができた。(だからユイにあのように言ったのだが・・・)

目が見えないのはとても辛いものだった。アズサに恐怖を与えた。歩いて帰ろうと思ったがそれはやめた。これはユイの身体である。いくらもう自分の体であるとはいえ、傷をつけるのは抵抗があった。これはアズサの脳内の咄嗟の言い訳であったが。何にしろアズサは怖がった。故にアズサは歩いて家に帰りたくないと考えた。これはユイの身体である。勿論脳味噌もユイのものだった。故にアズサはユイの家を難なく知った。そこに飛ぶことにした。

アズサは指を鳴らした。


アズサはベッドに横たわっていた。想像以上にここまで来るのは苦なものだった。色々なものにぶつかった。体が痛い。家のものが壊れたかどうかが心配だった。しかしそれすらもアズサは認識できなかった。魔法を使って視覚を取り戻せばよかったのだろう。しかしながらそれはあえて視覚を奪った数時間前の自分を否定することにつながると考えた。故にアズサはそうしなかった。しかしながら魔法を使って部屋の状態を元に戻した。これはアズサなりのユイへの最大限の配慮であった。

アズサは自分はもっと苦労を経験すべきだと考えていた。なぜならアズサは魔女である。つまり魔法を使うことで苦労などせずに生きることができる。しかしながらアズサは人間である。アズサは苦労することは己の人間的な成長につながると考えていた。なおかつ魔法を使えるアズサは簡単に世界を変えられる。そう考えていた。実際そうだった。アズサは独断でそれを変えることはいけないと考えていた。つまり、自分をコントロールすることが必要と考えた。そのためには人間的に成長する必要があると考えていた。故にアズサは自分はもっと苦労すべきと考えていた。

今考えたらユイの願いを受け入れた理由はこれもあったかもしれない。少なくともないとは言い難い。

アズサはこれからを考える必要があった。しかしながらアズサは人間である。新しい環境にそれなりに疲労していた。故にアズサはそのまますやすやと寝息を立て始めた。

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