感覚を奪う魔女の正体

魔女は、アズサは少し欲求不満を抱えていた。アズサがこのルールで他者に魔法を提供したのは己の持つ悪意を打算的に抑制するため、確かにそうであったが、元はただの彼女の善意からであった。

アズサは果たして自分の行動が他者の役に立っているのか、アズサの中にはこんな疑問符があった。

ふと、アズサはある人に会いに行こうと思った。特別な支度は必要ない。そろそろ様子を見に行こうと思っていたのだから。アズサは最低限の支度をして、靴を履いた。歩いて行こう。これは最低限の彼女への配慮だ。

アズサの家の天井は少し落ち着かないものがあった。


この家にはインターホンがあった。壊れているのは知っていた。せっかくだし直してみようと思った。指を鳴らす。そしてインターホンを押した。相変わらず、ただ思うだけで、ただこうしたいと考えるだけで魔法が使えるのは不思議なものだ。と思う。やがて一人の女性がドアから出てきた。

アズサは自分が想像する自分、それと鏡で見た自分、それと他者から見た自分、これらは全て違うものであると再確認した。

「調子はどうかしら、ユイ。」

アズサから口を開いた。目の前の女性、ユイは少し考えながら、

「比較的元気。この環境にも慣れたかな。」

「それはいいことね、上がっていいかしら。」

「おいで、一人ってのは少し寂しいから。」

不思議な感覚だ。この感じにはやっぱり慣れない。そうアズサは思った。


アズサは目が見えない。しかしながらアズサは魔女である。故にアズサが視界を取り戻すのは造作もないことであった。

アズサは視界を取り戻すことを手動化した。好きな時に戻し、好きな時に失う。故に少し不便なものであった。見えない時、アズサにとってそれは本当に辛いものだった。しかしながらアズサはそれを受け入れた。

アズサは自分にルールを課した。それは自分が魔女でいるときは視力を取り戻し、自分が一人の女性アズサである時は全盲でいよう。と

それが、アズサにできるユイに対する最大限の配慮である。とアズサは考えていた。

ユイはアズサが魔女であることを知っていたから、アズサはユイの前で視覚を持つことができた。

そもそも、最初にアズサの元で魔法によって願いを叶えてもらったのは、ユイだったのだから。

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