真実を知って

「ねえ。」

コノハは初めて自分から口を開いた。

「どうしたの?」ユウは心配げに言った。コノハから話し出したことが初めてだったことで少し驚いてるようでもあった。

アズサは何も言わずコノハに視線を向けた。

「私は、私が魔女なの。あなたたちをここに連れてきたのは、私。」

数秒、誰もが何も言わなかった。いや何も言おうとしなかった。誰もが次の言葉を待っていた。驚いていた。しかし何も言わなかった。今はコノハの意思を尊重しようと思った。たまたまそんな思考に全員が行き着いたのだ。

「私はあと数時間で死ぬ。それはいいの。それは私が望んだことだから。私は、私は。」

コノハは迷っていた。なんと言えばいいのか、自分の事情はそれなりに複雑なものな気がした。言葉を探した。しかし喉まで出てきてそれ以上言葉は前に進まなかった。

「仮説は正しいってことかしら。」

アズサにとってこの言葉は精一杯の助け船だった。コノハは頭が良かった。ゆえにコノハはこれを瞬時に理解した。そして乗った。

「正しい。ここは私が作った空間だから。」

リョウは勘がよかった。故にアズサの行動の意図を自分なりに察し、解釈した。その解釈の仕方は正しいものだった。

「理由があるなら聞かせてくれないかな。」

これもまた、リョウなりの最大限の助け船のつもりだった。

「端的にいうと、話したいと思ったから。」

「僕たちと?」

「そう。」

「命に制限時間迫っているという事実を知っているのはあなただけよ。あなたが許せるだけ話せばいいわ。」

ユウはうんうんと頷いた。

「気になるし、教えてよ。」

コノハは魔法を使った。自分に残された時間を知るための魔法だった。そして意を決して、話した。


コノハは己が感じた苦悩、恐怖、全てを話した。話が終わるまで3人は何も言わなかった。いや、話が終わってからもしばらく沈黙が続いた

誰も何も言わなかったのは全員が優しかったからだ。全員が言葉を丁寧に扱おうとしたからだった。そんな中で最初に口を開いたのはアズサだった。

「コノハは、どうしたいの?」

最適解。そう言っていい質問だった。

「時が止まってるんでしょ?ならいくらでも付き合ってあげるよ!!ねえねえ魔法ってどんな感じで使うの?」

ユウの正直な発言がコノハは好きだった。本当に思っているように見えるから。

「そうだね。数時間の命だもんね。わざわざご指名していただいたんだ。僕でよければ付き合うよ。」

コノハの胸はぱーっと明るくなった。死を目の前にして、コノハは幸せを知るこちができた。

その後は魔法をふんだんに使って楽しんだ。終始コノハは笑っていた。一生分笑った。1時間、2時間、時間はあっという間に過ぎていった。残った時間が1時間を切る頃には部屋の中は最小に比べてとても賑やかなものになっていた。

「あはは、なんか疲れたなあ。」

ユウは最初に座った席に戻って言った。

「コノハ、コノハは何がしたい?時間は短い。あっという間なものだよ。」

コノハは決めていた。コノハは大体の知識を頭に蓄えていた。尚且つ人並み以上の想像力を持っていた。そんなコノハにもわからないと思えたことがあった。それは自分と違う人種の価値観である。最後にそれを知りたかった。そもそもコノハはこれを聞くためにこの部屋を作ったのだ

「みんなが魔女に何を求めたのか、対価に選んだ感覚とその理由が気になる。」

少し全員の顔が曇った気がした。コノハはそれを想定していた。対策はしていなかったが。人に話したいものではないだろうと思っていた。それでも知りたいと思った。

沈黙は長かった。数分間誰も口を開こうとしなかった。先程までの楽しい雰囲気はまるで嘘のようだった。しかしながら沈黙は破られた。もちろん、コノハ以外の声によって。

「いいよ。仕方ないなあ。でもひとつお願いがあるんだ。」

ユウはコノハに耳打ちした。コノハは一度だけ頷いて指を鳴らした。ユウはいやな顔を一瞬見せた。

ふふ。と笑ってユウは深呼吸を二回挟んだ。そして話し始めた。

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