~回想~ 魔女の中の怪物

魔女はあの日以降も懲りずに公園に出向いていた。しかししっかり行く前に天気予報を確認するようになった。その日はベンチよりブランコに座りたい気分だった。魔女はブランコに座って他の遊具で遊ぶ子供を見ていた。しばらくの間、そうしていた。一つの家族が帰り、新しい家族がきた。子供だけのグループもきた。魔女は微笑ましくそれを見ていた。そんな時だった。子供が一人、滑り台から落ちた。柵を乗り越えるような形だった。頭から落下した。子供は動かなかった。滑り台の周りだけ、沈黙した。沈黙は広がった。やがてその子の母親だろう、女性が子供に近寄った。その目には涙があった。子供は頭から出血していた。地面が二つの液体によって濡れた。勿論、塗った地面の面積は赤の方が多かった。数分してサイレンの音が聞こえた。大人が子供を囲った。母親はただただ泣いていた。魔女はずっとブランコに座っていた。

魔女は不思議な感覚を抱いていた。

それから10日も立たない日のことだ。魔女はなぜか公園に行くことを避けていた。子供たちは今日も健気に遊んでいた。通りかかったから知っていた。魔女が公園を通り過ぎた理由は魔女にもわからなかった。

犬の散歩をしている女性がいた。魔女は別に興味を持っていなかった。しかし数秒後魔女はそれに興味を持つこととなった。

犬が唐突に走り出そうとした。女性は咄嗟にリードを掴んで止めようとした。しかし反応できなかった。リードは持ち手から離れた。犬は道路の真ん中へ走った。トラックがクラクションを鳴らした。とても大きな音だった。しかしその後に聞こえた鈍い音の方が魔女には大きく聞こえた。犬は倒れていた。トラックは止まった。

轢いた。それだけだった。

女性は泣いていた。数日前に見たあの顔と重なった。魔女はそれを見て一つの確信を得た。魔女はそれに対する驚き。恐怖。高揚。様々な感情を抱えて走った。来た道をひたすら走った。事故の現場との距離はどんどん離れているのに、女性の泣き声はどんどん大きくなっているような気がした。


魔女は怖かった。自分は人が泣いている姿を見てとても大きな高揚感に浸ったのだ。そんな自分が怖かった。もう一度見たいと考えている自分が怖かった。そしてそれが簡単にできる環境にいるという事実が怖かった。自分が怪物になる。そう考えた。いや、魔女の中に元々怪物はいた。それに身体が支配されるのが怖かった。

その日から魔女と魔女の中の”悪魔”との戦いは始まった。

約1年の激闘の結果は、魔女の勝利。魔女はそう判断した。魔女は本当は知っていた。勝ち。それは一時的にすぎなかった。魔法を使わない誓いは、あくまで魔女の意志によって成立しているからだ。魔女の中の”悪魔”が簡単に死ぬわけがなかった。何故なら悪魔もまた魔女の感情であったからだ。

しかしながら、魔女は優しかった。魔女は人一倍優しかったのだ。

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