目が見えない少女 ~回想~幼少期

魔女はブランコに座っていた。まだ八歳の時だった。魔女は一見ただの少女だった。一眼見て魔女に対し「この人は魔女だ」とは絶対言えなかった。そもそもこの世界において魔女というのは”いるわけない”ものだった。魔女はそれを理解していた。故に魔女は大抵の人間と大きく差異のない生活をしていた。

魔女はブランコを漕ぐことはしなかった。ただ足をつかず座った上で、風に身を任せていた。魔女はそんな状態が好きだった。

魔女は魔法を使ったことがない。いや、一度だけ、”使ってしまった”ことがある。それは六歳になる前のことだ。魔女は己が魔女であることを自覚していた。しかしながら魔女はとても”いい子”だった。魔女はどんな時でも母親との約束を守り、魔法を使わないようにしていた。見せびらかしたくなる年頃だ。しかしそれを我慢した。

そんな時だった。ある日のことだった。魔女は公園が好きだった。自分と同じ年頃の子供が遊んでいるのを見るのが、好きだった。魔女はベンチに座ってそれを眺めていた。そこで昼寝をすることも、好きだった。子供が楽しく遊ぶ声は魔女に平和を感じさせた。魔女は安心して眠れた。ある日も魔女はベンチに座って眠っていた。

魔女は身体中にある水気によって目を覚ました。雨が降っていた。寒かった。今までに感じたことない感覚だった。いや、今より軽いがこんな感覚を感じたことがあった。熱、そうだ。魔女は理解した。魔女は今とても高熱だった。体を起こし、たった。魔女は歩こうとした。無理だった。魔女はふらついた。そして倒れた。体はいうことを聞かなかった。しかし魔女は家に帰らなきゃいけない。魔女はただ祈った。助けて。魔女は涙を流した。寒いよ。辛いよ。魔女の願いは一つの魔法となった。魔女は二度目の眠りについた。勿論魔法を使った自覚なんかなかった。魔女の母親は数分後、魔女を抱きかかえた。


アズサは第六感を信じていた。それはアズサ自身がそれを持っているからだ。現在進行形でそれは働いていた。ドアがあることには気付いていた。その先に人がいる。アズサの第六感はそれを伝えた。一人ではない。それもわかっていた。

アズサは第六感を疑っていた。そもそもそんなものがあるならなぜそれは科学的に証明されないのか、甚だ疑問だった。アズサは科学者などの学者に信頼を持っていた。アズサにとってそれは一つの指標だった。故にアズサは第六感を疑っていた。しかし今のアズサにとってそれは重要でなかった。重要なのは、ドアの向こうに人がいるという事実だった。

「いる?」そんな声が聞こえた。自分に対しての声だった。

アズサはここで「いる。」と答える必要はないと思った。しかし何らかの言葉を返すべきであるとは思った。つまりアズサは返答をする上で自分の存在を認める必要がないと考えた。なぜなら何らかの返答をすることで自分の存在を証明できるからだ。

何と答えようと思った。考えた。相手に何か確認したいことがあるか考えた。一つあった。

「何人?」

「私を含めて、三人。」

当たっていた。それを確認したことでアズサは満足した。アズサの第六感に対する信用度は少しだけ上がった。アズサはそれ以上を求めなかった。そもそも求めているものはなかった。

「出たい?」とドアの奥の声は言った。

「出たい。わからない。でも出るならあなたの助けが欲しいわ。」

「入っていいのかな?」

「勿論、入らないと私を助けることはできないじゃない。」

ドアが開く音がした。アズサは目を閉じた。アズサは小さな声を感じた。小さすぎて誰の声かはわからなかった。誰からの声かも、判断できなかった。コノハは何も言わずアズサの手を握った。

「立っていいよ。」

「ええ。」

アズサはほぼ身体をコノハに預けていた。コノハは自分の口以外から音を発さなかった。ユウは二人を見て、少し口元を緩めた。

「まっすぐ歩ける?」

「多分。」

「杖はない。ごめん。」

「大丈夫。手ならあるわ。」

アズサは歩き出した。手を前に出して、ゆっくりと。アズサの中の疑問符はすでに消えていた。新たに疑問符が頭に現れたのはリョウだった。リョウの中で仮説ができた。

アズサは広間にでたのを感覚的に理解した。コノハはもう一度アズサの手を握った。

「こっち。」

そっけなかったが。コノハは優しかった。少なくともアズサはそう感じた。アズサはされるがままに椅子に座った。リョウも、ユウも、コノハも同じく座った。

役者は揃った。と言えた。

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