未知の場所に来た少年少女

コノハは目を開けた。目の前にある光景を見た。勿論それは天井である。コノハは天井を一瞥した。表情を変えずかけ布団から出て、床に足をついた。数秒後、スリッパの存在に気づいて、履いた。自分の来ているパジャマと部屋の雰囲気を見て、あまりにマッチしていないという結論に至り、少し笑った。そしてドアノブに手をかけた。


アズサは目を開けた。目の前にある光景を見た。勿論それは天井である。アズサは天井を一瞥した。表情を変えずかけ布団から出て、床に足をついた。数秒後、アズサの頭に一つの疑問符が生まれた。アズサは手を前にして歩き出した。暗闇の中で何かを探しているように、眼鏡を探すために床を闇雲に触っているかのように。アズサは立ってそんな動作を行なった。そして確信した。アズサは手探りで先ほどまで寝ていたベッドを探し、座った。そして腕を組んだ。目を開けたまま。部屋のドアが開くまで、そうしていた。


不思議なつくりだった。一番広い所謂直方体の部屋に大きなテーブル。そこには向かい合うように二つづつ計四つの椅子。その部屋の一つの壁から続く4つの独立した通路。コノハは先ほどその中の一番左の部屋から出てきた。通路がある壁と対となる壁に一つの扉があった。


理由なくコノハは一つの椅子に座った。

数分後扉が開く音がした。先ほど見た四つの通路のうち一つから人が現れた。コノハは自然とそこに視線を向けた。「名前は?」と声をかけながら。

「名を名乗るのは重要だね、だけどここがどこかまず説明が欲しいな。」

「私が君の説明して欲しい情報を知っている前提?」

「知らないなら知らないといえばいい。僕の心情を軽く説明すると僕は今、拐われた。と感じているんだけどその場合まずは何らかの情報を欲するのは自然だろう?いや、この問い方は良くないね。僕はそう考えた。でその場合一度さらった人間が君であることを既成事実にして質問する。君がここにいる時点で君の立場は二択だ。一つ、君も僕と同じ立場であること。二つ、君が僕を拐った本人であること。つまりこの質問は君の立場を間接的に知ることができる。欲しい情報を手取り早く手にする上で最も効率的な方法と言えるだろう?」

「なるほど。君の考え方は理解した。でもその考えには一つ欠点がある。」

「それはなんだろう。」

「私の立場が君の言ったものの前者だった時、私は間接的に濡れ衣を着せられた事になる。濡れ衣を着せられた相手はどんな気持ちになると思う?」

「なるほど。実に感情的だ。僕は君が人間であることを考えていなかった。当たり前の仮定を拾えていなかった。これは僕の反省点だね。申し訳ないことをしたね。」

「構わないよ。で二度目だけど私が聞きたいのは君の名前だよ。君の質問の答え方で、私の人物像は絞れたんじゃないのかな?そろそろ私の質問に答えてほしい。これは贅沢な質問かな?」

「いいや。そうは思わないよ。僕の名前はリョウ。よろしくね。」

「うん。よろしく。」

「この自己紹介で何か得られたものってあるのかい?」

「うん。あるよ。」

「それは何?」

「君の名前。そもそも名前を聞いて名前を答えただけで名前以外に得られる情報なんてあるの?」

「考え方次第ではあるね。なぜなら情報の評価はその情報にどれだけの重要感を抱くかだと思うからね。一つの情報がどんなふうに評価できるかは人によって異なり、評価の低い、つまり重要でないと判断される情報は頭の中で『それが情報である』とすら認識しない。少なくとも君の中身が僕だったら他に得られる情報はあったと言えるよ。」

「そう。」

コノハは別に興味を持っていなかった。しかしコノハは満足していた。

そしてリョウはコノハと同じく椅子に座った。自然とコノハと向かい合う席に着いた。勿論この行動に理由はなかった。

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