感覚を奪う魔女

コノハは考えていた。

女魔法使いと魔女。この二つの言葉としての違いはなんだろう。

彼女の中で”魔女”というものは一般的に、悪いイメージで定義されていた。ロールプレイのゲームなら村人をさらったりしているようなイメージ。

コノハの中で一つの単語に抱くイメージはその単語がどのような使われ方をその単語を初めて見たときに感じたか。という仮説を持っていた。

コノハの記憶にはないがコノハが初めて魔女という単語を五感で感じたのは『ハウルの動く城』の荒地の魔女であった。

コノハの仮説はこの場合において、正しかったと言える。


噂好きの少年少女でなくても学生の中で本当に知らない人間はいない。そんな噂があった。いいや。もはや噂ではなかった。と言ってよかった。

しかしながら今回においてのみ説明の合理化のために”噂”と呼ぶ。

噂はこんなものだった。

魔女がいた。魔女は魔法を使うことができた。故に魔女は魔法を使いたがった。魔女はどんなこともできた。勿論、魔法を使うことで、だ。

魔女は魔法を人のために使いたがった。しかしながら無償で人のために魔法を使うのは様々な観点から魔女にメリットがなかった。故に考えた。対価に値するもの。

人が魔女に与えられるものは魔女は簡単に手にいれることができた。勿論、魔法によって。本もお金も簡単に、生み出せた。


魔女の結論は、感情、だった。

魔女は一つの行動によって己の善意、そして悪意両方を埋めようとした。魔女は人並みの理性があった。いや、環境を見たら人並みよりあるかもしれない。

魔女は魔法を深呼吸をするかのように簡単に使うことができる。それによって他者に危害を加えることも容易なことだった。魔女はそれでも己の悪意のために魔法を使わなかった。それはただただ魔女が優しかったからと言える。

魔女の心の悪意はどんどん大きくなった。魔女は魔法を使ってこの気持ちを沈めようとした。しかしながらそれは不可能だった。なぜなら魔法を使う上で必要なのは欲求。それだけだ。つまり心からこうしたい。そう想うことだった。しかしその”それだけ”ができなかった。つまり魔女は心から思えなかったのだ。この心にある悪意を消したい、と。


魔女にとって定義された”悪いこと”は他者になんらかの危害を加えることだった。魔女の悪意の実現とは魔女が定義した”悪いこと”を己自身が行うことだった。

魔女は溢れ出す悪意を抑えていた。しかしその限界を感じつつあった。だから魔女は打算的にこの問題を解決しようとした。魔女は人に与えることができた。そして奪うこともできた。魔女は他者から奪うことで己の悪意を沈めようとした。

具体的に魔女は、願いを叶える対価として、その人間の”感覚”を奪うことにした。勿論感覚とは五感のことだ。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、そして触覚の五つ。魔女がこんなものを対価にしたのは人間から奪ってまでわざわざ使うものはなかった。故に有用性を問わなかったこと。そして魔女は考えつく限りの平等な対価にしたかったからだ。


魔女は計四人の願いを叶えた。勿論、願いを叶えて貰った人間は五感のうち一つを魔女に奪われた。一つの例外を除いて、だが。

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