第2夜

私は昔からおじいちゃんっ子だった。

家が近所ということもありよく遊びに行った。

おじいちゃんとおばあちゃんの作ってくれるご飯はいつも家で食べるものとは少し違う。

和食が多く味付けも少し薄い。

でもそれが何となくこの家の味だった。


遊びだってそう。

おじいちゃんとおばあちゃんにどんなにゲームの説明をしてもなかなか上手く出来なかった。

もちろん私も子供で説明不足は過分にあった。

それでも私と何とか一緒に遊ぼうと頑張ってくれていた。


おじいちゃんの家にある遊びと言えば竹とんぼとかお手玉とか缶ポックルとかけん玉とか竹馬とか。

たしかに少しの時間なら楽しいけど直ぐに飽きてしまう。


それを見兼ねたおじいちゃんは色んな種類の紙飛行機を教えてくれた。

ハサミを使わないと作れない紙飛行機もあった。

初めて見る形が多くて楽しかったけどおじいちゃんのように上手く飛ばせなかった。

だから結局長続きはしなかった。


いつからだろう?

おじいちゃんの家よりも友達と遊びに出かけることが増えた。

たまにお母さんと一緒に行ったりもするけどほとんど行かなくなってしまった。

友達と遊ぶ方が楽しかった。

懐かしいおじいちゃんとおばあちゃんのおうちの味ももう忘れてしまった。


私が中学に上がる頃、おじいちゃんは体調を崩すようになった。

いつも元気に一緒に遊んでくれていたおじいちゃんに比べると少し痩せて元気もない気がした。

それでも私の前では笑顔で明るかった。


それからしばらくしておじいちゃんは色んな検査をするために入院してしまった。

検査入院なんて1週間もせずにすぐ帰ってくると思っていた。

しかし1週間経ってもおじいちゃんは帰ってこなかった。

それどころか検査をして癌が見つかったと聞いた。

私は直接聞いた訳じゃないけれど、お母さんが誰かに電話をしている声が聞こえた。


今は癌だって治ると聞く。

きっと大丈夫。

だっておじいちゃんは私の前であんなに元気に明るく笑ってくれた。

そう自分を奮い立たせる。

でも不安で押しつぶされそうになった。


今年も冬が来た。

おじいちゃんはあれから2ヶ月も入院している。

検査入院から治療のための入院に変わってしまった。

時折お見舞いに行ったけど痩せていくおじいちゃんを見ることが辛くてなかなか会いにも行けなかった。


もうすぐクリスマスだ。

外はイルミネーションで輝き出した。

おじいちゃんの病院でもささやかなイルミネーションが灯っている。

一緒に車椅子のおじいちゃんを押して病院の敷地内をお散歩した。

『綺麗だね。おじいちゃんが若い時はあまりこういうのはなかったから。』

おじいちゃんは優しく微笑んだ。

それはいつもの笑顔と何一つ変わりなかった。


サンタさんが叶えてくれるか分からないけど私は必死におじいちゃんが良くなることを祈った。

でもその願いが叶うことは無かった。


クリスマスイブ。

どんどん悪くなる数値。

ひっきりなしに出入りする看護師。

1度入ってから全く出てこない医師。

おじいちゃんの苦しそうな息が聞こえる。

私はとても怖くて病室に居られなかった。

何が起きているのか何もわからなかった。

分かりたくもなかった。


『入っておいで』

涙のあとがあるお母さんに言われてそっと病室に入る。


かろうじで息をしているおじいちゃん。

私を見ると苦しそうに微笑んで

『来てくれていたんだね』

と私に声をかけた。


私は必死に泣きながら訴えた。

『元気になって家に帰るんだよ。また遊びに行くからね。紙飛行機また作り方教えてよ。飛ばし方だって。美味しいご飯また作ってよ。また、食べたいよ...』


おじいちゃんは頷きながら涙を流している。

お母さんも泣いていた。

お迎えはきっともう来ている。

最期のときを待ってくれているようだった。


25日、クリマスマス。

日付が変わる。

外はささやかなイルミネーションが光っている。

窓は外気との温度差で白く曇っている。


おじいちゃんは微笑みながら少し掠れた声で言った。

『ありがとう。』

その後すぐにモニターは直線を表示していた。

幻だったんじゃないかと思った。

しかしたしかにいつもの元気な時と変わりないおじいちゃんが一瞬そこにはいた。

最後の力を振り絞って言ってくれたことが嬉しさと悲しみに変わって私は泣き崩れた。


今までおじいちゃんに繋がっていた点滴やモニター、その他の機器はすぐに片付けられた。

残された部屋は驚くほど広かった。

寝てたよと目覚めるのではないかと思うほどに安らかな表情をしているおじいちゃん。


今日はクリスマスだね。

おじいちゃんの今までの頑張りを称えるように外は白い雪がちらちらと舞っていた。

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