3-7 魔石を装着するということ

 グリモワールが入った魔石は、肉に根をはり装着そうちゃくできた。

 

 装着することで、人はグリモワールの所持者しょじしゃとなり、中に入った魔法を自由にあやつれる。

だが、グリモワールの魔力が人の身で支えきれなくなったら、人は……理性りせいうしなって……。


「それって、モンスター前触まえぶれじゃないの」

 

ケイティが鋭い質問をしてくる。


「あんた大丈夫なの? グリモワールとの融合ゆうごうはどれくらいなの? そんなに根をはっていなければ、身体に封印のじんを描いてえぐり取ってあげるわ」


 専門的な知識をケイティが口にするので、リリアンはまじまじと彼女を見た。


「どうして、そんなに魔法について詳しいのですか?」

「あんたが教えてくれたら教えてもいいけどね。融合ゆうごうは、歩く爆弾であるモンスターになる前兆ぜんちょうよ。この街でモンスターなんてでたら、最悪だわ」


 モンスター化した者を退治するのは非常に困難だった。


 まず、下手をするとモンスターのグリモワールが爆発すること。

 その上、モンスター化した人間は、人間体でいる時よりもはるかに大きな魔法を使うことができるのだった。


 しかも、グリモワールは、所有者が命の危機に陥ったときに最終魔法を行う。

 宿主防御魔法やどぬしぼうぎょまほうとも呼ばれていて、それはグリモワールに秘められた全ての《詩》を連鎖れんささせるものだ。

一生に一度、宿主防御魔法は発せられる。


「私はモンスターになる前に、兄に会ってお話がしたいのです……」


 リリアンが当初の目的を話しながら振り返ると、ケイティは深刻しんこくな表情で頷いた。


「兄は魔力が強かったので、修道詩会の本部に引き取られました。幼名はカイスです。カイス・キャロル。でも、青年になったので……名を改めたはずです」


 浮遊地ふゆうちの男性は、成人すると名を変えるのだった。


「カイス・キャロルね。そこまで分かっていたら時間はかかるかもしれないけれど探し出せるかも。この街にいるのね?」

「この浮遊地にいると聞きました。でも、それは幼少の時の話だそうです」

「他に手がかりはないの?」

「……ミスター・グレーバー」

「グレーバーって、あんた」


 その名に反応して、ケイティは開いた口を押さえた。


「西の賢者であるミスター・グレーバーなら、兄のことをご存じかもしれません。あの方が修道詩会に所属していた時期に、兄と私は修道院に引き取られたのです」

「そう」


 呟くように返事をしてから、ケイティは親指で唇を押さえて考え込む仕草をした。


 ミスター・グレーバーは、修道詩会を裏切った男としても有名だ。

 

 修道女がグレーバーに会うということは、修道詩会を裏切ったと思われても仕方がない……そのことをケイティも知っているのかもしれない。


「……あと、子供が生まれる前に、彼を捜さないと」

「あ、逃げた男ね?」

「はい。彼を見つけて子を預けようと思います。あと一つ頼みたいこともあるのです」


 名運なうんのグリモワールが狙われているとしたら、少年に頼んで何とかしてもらおう、とリリアンは思っていた。


「まず、あなたのグリモワールを見せて」


 ケイティに促され、リリアンは胸の谷間の上にある絆創膏ばんそうこうをぺりっとはがした。

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