2-5 そして彼らも追って逃げる!

「そんな人は知りませんが、でも、お会いしたら、あなたのことを伝えておきますわ」

「はい、よろしくお願いいたします」


 リリアンは深々と頭を下げて、他の通りを探すことに決める。


「お待ちなさい。私は親切心からあなたを占ったのではありませんわよ」

「え?」

「私がここで占いをしているのは仮の姿。実は怪しまれないようにショーのモデルを……」


 そこで、ぱたりと少女の言葉がとぎれた。

 リリアンは彼女の視線を追って振り返る。

 黒い機械きかい馬車が通り過ぎ、リリアンから数歩ほど離れた場所で停止した。

 

ガタンと機械きかい馬車の戸が開き、厳つくて人相の悪い二人組の男が飛び降りてきた。

ぴったりとした七三分けと緑のモヒカンという異種いしゅ格闘技のような組み合わせである。


 彼らを見るのは二度目だった。

 

一度目は、あのピグミーマーモセットのような老人詩人と出会った時である。


「やっと見つけた……」


 七三分けが、つかつかと革靴かわぐつを鳴らしながら近づいてくる。


「あなたをミスターが探していますよ」

「――冗談じゃないですわ」


 占い師は立ち上がって、いきなりテーブルを男達に向かって勢いよく放り投げた。

 するとテーブルの上に置かれていた小箱がガタンとみちに落ちた。

 箱の中身、うすくてひらひらしている絹の下着が、太陽に照らされて輝きながら散らばっていく。


「……ランラン、逆動ぎゃくどう蘭乱らんらん装填そうてん


 占い師が唱えると、顔を覆うベールを切り裂いて、小さな銃口が出てきた。

 額にグリモワールを貼っていて、それが銃化じゅうかしたのである。


素敵すてきに発砲」


 そして彼女は小銃を男達に向け、魔法を使った。

 だが、その発砲は攻撃ではなかった。

 彼女自身がはなたれた風圧によって、びしゅんとロケット花火のように飛び出した。


「待てっ」


 もちろん、顔に焦りを乗せて男達が少女占い師を追いかけようとする。


「いいえ! 待つのは、あなた達の方です」


 リリアンは両腕を伸ばして男達の前にむんっと立ちはだかった。

 無料で占っていただいたからには、それなりのお返しが必要だ。

 だから身体をはって助けよう。

 そう思ったのに、男達はリリアンを無視して道をけ抜けた。


「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ」


 リリアンも慌てて走り出す。

 しかし、リリアンが詩人なら男達も占い師も詩人のようだ。

 彼らは素早く立ち去っていき、通りの混雑は奥に行けば行くほど酷くなり、占い師は勿論、男達の姿も見えなくなっていく……。


 あんな男達に捕まったら、あの占い師がどうなるか分からない。


 探さないと、一刻も早く探し出さないと、と思うのだが、彼らの姿はどこにもない。


(――どうしましょう)


 リリアンが途方とほうれかけた時、ざわりと肌を撫でる冷気を右肩に感じた。

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