2-6 再会する訳ありと訳あり

「……あ」

「……あ!」


 曲がり角から、探し求めていたドレッド頭の少年が出てきたところだった。

 少年は露骨ろこつに顔をしかめ、リリアンを無視して立ち去ろうとする。

 リリアンは出会えたうれしさに言葉を失い、その後、嬉しすぎて泣きそうになって口を一文字に結びながら少年の後をとてとてと付いていった。


「……あの、あの」


 なんとか口を開いて声を掛けるが、少年は立ち止まらない。

リリアンは細い手指を動かして、少年の革ジャンの裾をちょこっとつまむ。


「待ってください。……ご用があるのです」


「待てるか、変態」

「変態ではございません」

「それってお前基準だろ」


 なんだか哀しくなってきて、リリアンは言葉をまらせた。

 早歩はやあるきの少年を追いかけながら、すんっと鼻を鳴らしてうつむいてしまう。

 

 すると少年が足を止め、なぜかビクビクと怯えた様子で振り返る。

 彼のひょうのような大きい目が向けられた時、また、きゅん、とリリアンの心臓が高鳴った。

 それと同時に奥歯に入れていた力がゆるみ、涙がぽろりとこぼれ落ちる。


「バ、バッカ、泣いてんじゃねーよ!」


 少年が狼狽うろたえて、リリアンの頭を軽く叩く。

 叩いてから「しまった」と口走り、今度はワシャワシャと激しく頭をなで回す。


「泣くなっ」

「は……はいっ」


 返事をしてリリアンは顔を上げた。

 あふれ出てくる涙で少年の表情が確認できず、手でごしごしと目を擦る。


「やめろ、目が真っ赤になるだろ」


 彼は、ライダースジャケットの下に着ている血まみれスカルプリントのTシャツの裾で、リリアンの涙をぬぐった。

 その触れ方が優しくて、リリアンは大人しく目を閉じる。

 少年は、「まったくよー」とか言いながらも、ぽんぽんと軽く叩いて涙を拭いてくれる。

 胸が高鳴り、歯の根が震えて、どうしようもない切なさがリリアンの胸にこみ上げてきた。

 

 あまり涙を流すと、泣き虫だって嫌われるかもしれない。


 嫌われたくないと思い、リリアンは鼻を鳴らしてぎゅっと目を閉じた。

 最後の涙がはらりと落ちると、少年がごつい指でそっと涙をぬぐってくれた。


「――で、用はなんだよ?」


 彼はポケットに両手を突っ込み、やや首をかしげて、リリアンの顔をのぞき込む。

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