1-10 夢見る乙女と羽根紳士
もうじき真昼なのか、今が真昼なのだろう。
リリアンは少年が駆けていった方へ、逃げていった方へと、向かっていた。
彼女を
「さっき、ものすごい冷気がしなかったか?」
「なんか寒かったよね。魚屋の刺身が凍り付いていたけど」
人々が、彼の異様な空気を感じとって話し合っている。
それだけではなく、冷気によって
あのような気が放たれるのは、彼自身の魔力がずば抜けて高いか、または
詩人の武器は、大きさと攻撃力が比例している。
彼の小さな銃が、これほどの冷気を生むとは思えない。
たしかに良くできたグリモワールだとは思った。
強い魔法ならば、レベルを告げて
だから弱い魔法を「上々」という言葉で強化していったのだ。
あの銃の仕組みは、魔法を焚き火にたとえると分かりやすいだろう。
焚き火を燃え立たせるには、木が必要だ。
その木を喚び出す魔法が、彼のグリモワールに入っていたはずだ。
よってグリモワールに入っている小さな魔法でも、「
だが、リリアンは彼の右手のグリモワールに強烈な攻撃力を感じなかった。
おそらく「
「グリモワールが普通の品なら……きっと、彼自身の魔力が高いはず」
もしかしたら、名が知れた魔導詩人なのだろうか。
たとえば、詩の天才『
全ての詩のジャンルを
一人は東の賢人と呼ばれる女性、
もう一人は西の賢人と呼ばれる男性、ミスター・グレーバー。
彼は
そこまで考えて、リリアンははっとした。
ここはアスペクト・ステップ……
もし、彼が西の賢人に関わる者なら、あの魔法の自由さも納得できる。
西の賢人は、
(はやく……彼のことを知りたい)
リリアンは、
(――早く会いたい、会ったら逃さない)
「ぜっ、ぜったい、責任を取ってもらいます」
固く決意を誓って、F1カーの如く曲がり角にギュインと入る。
その時、スラリとした細身の青年が彼女の視界に飛び込んできた。
ぶつかりそうになった瞬間、お互いに、ばっと身を離して
その身のこなし、
レースのスーツという
それは軽く触れただけで壊れていきそうな、ガラス細工のような笑みだった。
「お嬢さん、そのような姿で歩き回ってはいけないよ」
紳士は言って自分の胸元を指す。
リリアンは、えっと思ってから己の胸元へ視線を降ろした。
修道服の星印が刻まれたボタンは外れていて、はだけたままである。
「きゃっ」
両手でぷっくらとした胸の
「では、失礼」
そうして彼は静かに街の中へ消えていく。
で、白い翼がパタパタ動いていた。
リリアンは桃色に頬を染めながら、急いで胸のボタンをとめにかかる。
こんな姿で自分は彷徨っていたのかと思うと頭がクラクラしてきた。
最低限の常識をなくすなんて、本当に自分はどうかしている。
「……ぁ」
ボタンを摘んだ指先が胸の
胸の谷間には
……そこは秘密の場所である。
(これが暴走する前に、赤ちゃんを産んで
素早く服装の乱れを直して、リリアンはきりっと顔を上げた。
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