1-3 天然修道女、やらかす

誤情報ごじょうほう誤情報ごじょうほう誤情報ごじょうほう、残念なので三唱さんしょう


 背高のっぽのアパートが密集する街中で、修道女しゅうどうじょの少女は途方に暮れていた。

 兄を捜して三千里さんぜんり、いやはや五千里ごせんり六千里ろくせんり

 浮遊する大地をつなぎ合わせて出来上がったアスペクト・ステップを放浪ほうろうして、かれこれ一年が経過している。


 最初は、学者としても名高い彼女に付き添っていた者が三名いた。

だが二名が同性同士の道ならぬ恋に落ちて逃亡、残りの一名は旅の疲れが重なって入院となった。


 独りぼっちになった修道女しゅうどうじょリリアンは、黒い修道服しゅうどうふくのスカート部分を掴んで大きく息を吐いた。


 兄を訪ねて、この街のベル修道院しゅうどういんという所に行き、頑張がんばって抜け出して来たところだった。


「ベル修道院に兄がいない……では何処へ……」

 

 青年に成長した兄が修道士しゅうどうしとなり、ベル修道院にいるという情報が耳に入ってきたのは、三ヶ月前。

 だが、それは間違いだった。同じような名の青年がいただけだった。

 誤情報ごじょうほうだったのである。


 今年で十六になるリリアンの家族は、もう兄しかいない。


 良きことに魔法を使うよう働きかける宗教『修道詩会しゅうどうしかい』の修道士しゅうどうし同士だった両親は、悪漢に惨殺され、幼いリリアンと兄は修道詩会しゅうどうしかいによって助け出された。

 しかし、修道詩会しゅうどうしかいでは男女間の恋愛を禁忌としていて、性別が違うために兄と妹は別々の修道院に入れられたのである。


 女性のように細くて美しい兄の面影おもかげは、なんとなく、ぼんやりと脳裏のうりにある。

 そんな曖昧あいまいな記憶を頼りにして、リリアンは各地の修道院を巡っていた。


 修道詩会では魔法を生み出す『火水かみ』を崇め、力ある魔法書グリモワールを利用して、世界に輝かしい平和を与えようとしていた。


 兄もそれに関わる仕事をしているはずだった。


「……この街には、あと二つ修道院があるはず」


 立襟の奥で喉を鳴らし、長い修道服の裾を翻して彼女は歩き出した。

 や、歩くつもりが駆けだしていた。

 実は一刻も早くベル修道院から離れたくて仕方なかったのだ。


 さきほど、ベル修道院の者達は、「旅の者よ、この修道院に泊まるがいい」と彼女に言ってきた。

 だが、リリアンは戸惑った。


 なぜなら、その修道院は男の園で、女の園の尼僧院にそういんにいた彼女には、かなり敷居しきいが高すぎたのである。

 聖なる男達は、メラメラした目でこちらを見つめていたし、やたらに触るわ、個人情報を聞いてくるわで、少々怖い思いをした。


(此処は危険!)


 ピンっと女の勘が働き、リリアンは咄嗟に「買い物に出かける」と言って修道院から飛び出した。

 もちろん、男達が後をついてこないようにさくも巡らせた。


「わたしは女性下着専門店に、今日の下着を買いに行かねばならぬのです!」


 彼女の堂々たる宣言に男達はくっしたように見えた。


 しかし……彼女は自分が巡らせた策に、今、まさに足を掴まれようとしていた。

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