1-4 訳あり修道女と訳あり魔導師の出会い

 屈服くっぷくしたかに思えた修道士達は、そっとリリアンのあとを付け……彼女が街の建物と建物の間の濡れたトンネルの暗がりに入るや否や、おそいかかってきたのである。


「何をするのです!」


 修道士達は彼女へたぎった眼差まなざしを注ぎ、そして道の端に追い込んだ。


 リリアンは「神に祝福された美貌びぼう」と人々に賛美さんびされるほどの美少女だった。


 輝く水色の瞳は澄んだ湖のよう、波のように揺らめく淡い金髪は光の祝福を思い出させ、砂糖菓子さとうがしのような無垢むくな顔つきは欲情をあおる……と、数々の詩人達が彼女をたたえていた。


 顔が可愛いだけではなく、小柄な身体のラインは美しい曲線を描き、きめ細かくて柔らかそうな肌はつやつやとしていて、嫌でも異性の目を惹いてしまうのだ。


「本当に噂通りに美少女だ。王族達が君を求める理由も分かる。こんなに欲情したのは久しぶりだよ、リリアンちゃま」


「わたしを『ちゃま』付けで呼んで良いのは、この世で一人だけです」


 睨み付けると、彼等は笑った。

 恐らく、ちゃま付けのことは、修道詩会しゅうどうしかいの誰かから聞いたのだろう。

 この世でただ一人「ちゃま」を付けて彼女を呼ぶ彼は、とても有名な人だった。


「お兄ちゃんの居場所が知りたきゃ、俺達を楽しませてくれよ」

「え……兄の居場所を知っているのですか?」


 リリアンはじっと修道士達を見据みすえ、そして彼等の声に嘘が感じられなかったと思う。


「言わないならば、身体に聞くしかありませんね」


 そしてリリアンは、黒と白の対比が見事な気品溢れる修道服のふっくらとした胸の膨らみに並ぶボタンを一つずつ外していく。

 修道士達は彼女をよくは知らないようで「自分から脱ぎだしたぜ」とよだれを流した。


「それでは――」

 

 彼女が声を発した時、トンネルの中に怖気が走るほどの冷気が流れてきた。


 リリアンも修道士達も、冷気に意識を引っ張られてトンネルの入り口を向く。

 暗がりの中、猫背の少年が足音も立てずにこちらに進んでくる。


 その少年を単語で現すとしたら、悪人である。

 世界中の邪悪じゃあくをかき集めて女の腹に植え付けたら、こんな少年が産まれるのかもしれない。

 見た目だけではなく放たれる威圧いあつ感も、野蛮やばん粗忽そこつ

 彼がまとう気は、悪行の限りを尽くしたドブネズミの王様のようだと思う。

 普段なら、絶対に関わりたくない人種である。


 彼は、肉食系のどう猛な猫目を修道士達に向けて、「退け」と言った。

 少年がまとう極寒の気が肌を冷やし、その場にいた者達がぶるるんと戦慄せんりつする。

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