第18話 風精

陽が傾きかけた頃に、ようやく山頂へと着いた。


山頂は開けた空間になっており、そこに風の精霊『風精シルフ』が居た。


風精は、人間の赤ん坊くらいの大きさで、羽が生え女性的な見た目をしていた。


その外見だけは庇護欲を掻き立てられるが、見た目に騙されてはいけない。例えるなら、城下町を壊滅させる程の嵐。それを凝縮したかのような魔力と威圧感を、目の前の小さな風精は放っていた。


精霊達と契約するための、最も一般的な方法が、戦って倒すことである。そして、力の関係を示した後に、魔力的な繋がりによる主従関係を結ぶのだ。


戦いの開幕と同時に『破裂バースト』を直撃させた。精霊には属性魔法が効きづらいが、無属性魔法は充分な威力を発揮する。


ヤーマンは『魔法剣士』固有の特技、剣を魔力で強化する『魔剣撃』で風精に斬りつける。


ナツも武器を杖から剣に持ち替え、『魔剣撃』で戦う。ナツは普段は杖を持ち、魔導士のように戦っているが、就いているクラスは『魔法剣士』なのだ。


風精への攻撃は手応えはあったが、その見た目に変化はない。精霊とは魔力の塊のような存在であるため、怪我をすることはなく、ただ存在の力が弱まっていくだけだ。


私たちの連続攻撃を受けた風精は一度大きく飛び上がり上空から『雷撃陣エルサンダー』を放った。


雷が豪雨のように降り注いでくる。


『魔導士』や『魔法剣士』は魔力が高いため、他のクラスよりも魔法攻撃に対する耐性が強い。しかし、風精の雷撃は、たった一発で壊滅的なダメージを私たちに与えた。


ヤーマンもナツも地面に倒れ伏し、ピクリとも動かない。僅かながら魔力を感じるので死んではいないだろうが、戦闘不能であることは間違いない。


この世界の風の概念そのものとも言える風精に挑むのは、まだ早かったのかもしれない。


だが、ここで私が倒れてしまったら、ここまで付き合ってくれた教え子達を見殺しにしてしまうことになる。それだけはできなかった。


回復薬ポーション』を飲み、風精に向き直る。


「『破裂バースト』、『破裂バースト』、『破裂バースト』」


上空にいる風精に向かい、魔法を撃ちまくる。風精の魔力が少しずつではあるが削られて行くのを感じる。このまま押し切れる訳はないだろうが、魔力が尽きるまで、打ち続けるしかない。


何発撃っただろうか。魔力が切れ、『魔法薬メンタルドロップ』を口に含もうとした瞬間。


豪雷スパーク


天が割れた。


あたりは一瞬、光に包まれ、全身に衝撃が走り、私は意識を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る