第3話 古代文明の考古学者

ハクナ城下町は首都ということもあって広い。旅人が泊まる宿屋や、普段の生活用品を販売する道具屋。さらには、冒険者に武具を提供するような武器屋や防具屋など、一通りの商店は揃っている。


その他、魔導士を育成する魔導学校や、この国の国教となっているダーラン教の教会があったりする。


僕は回復魔法への適正があったので、ダーラン教の聖女ユリから直接、手ほどきを受けて初級の回復魔法【治癒ヒール】を扱えるようになった。僕もダーラン教の信者というわけだ。


そんな訳で、街に出た時はダーラン教会に顔を出すんだけど、今日、用事があるのは教会ではない。


そう。憧れのマタタ古代文明研究家、モララーの元へ向かうのだ。


モララーの研究所は、街の郊外にあるドーム状の建物であることは、情報通の門番ヤーマンから仕入れた情報だ。


初めて行く道だったが、遠目から見ても目立つ建物だったので、迷うことなくたどり着けた。


あとはどうやって弟子入りするのかが問題だったが、ここまで来て悩んでいても仕方がないので、ドーム状の建物に唯一ある入り口らしき場所の扉を叩いた。


しかし、反応がないため、声を出して呼びかけてみたり、思い切り扉を叩いても誰も出てきてくれない。


留守だろうか?出直すにしても、城に帰るわけにも行かないので、しばらく待とうかと思って何気なく扉の右側に目を向けた時、気になる突起を見つけた。


ちょうど指を置いて押し込みたくなるような突起だ。知っているぞ。これは『ボタン』と言うやつだ。


愛読書である『マタタ古代文明の遺物』で読んだことがあるから間違いない。


そう。これは、押すだけでさまざまな現象を引き起こす機械と呼ばれるものの一つなのだ。


その中でもこれは、『タクトスイッチ 』と呼ばれるタイプのボタンだ。押した時だけ、魔力と似た電力というエネルギーが循環し、ある決まった効果を顕現させることができる。そして、ボタンから指を離した時には、その効果が失われるのだ。


ただ、中には『オルタネート』と呼ばれるものもあり、見た目はタクトスイッチ と同じなのにも関わらず、離しても効果が途切れないものもあると言う。そんな時は焦ってはいけない。もう一度ボタンを押すことで、その効果を消すことができるのだ。


このボタン一つで、部屋に明かりを灯したり、部屋を暖めたり、逆に冷やすことができたりもすると言う。中には、世界を滅ぼす爆発を引き起こすボタンも存在するらしく、マタタ古代文明もそのボタンで滅んだという伝説さえある。


まさかそんな危険なものがこんな所にあるわけはないだろう。


僕はこのボタンの存在を知った時から、生きているうちに必ず押そうと思っていたのだ。 このチャンスを逃すわけには行かない。


勇気を振り絞ってボタンを押してみた。




— ピンポーン —




少し間の抜けたような、高い音が鳴り響いた。


生まれて初めて生のボタン見てしまったので、ついつい興奮して押してしまったが、世界が滅ぶ可能性があったことを考えると、今になって冷や汗が出てきた。変な音が鳴るだけで済んで、本当に良かった。


そんなことを考えていると、扉が開き、中から眼鏡をかけた背の高い男が出てきた。


「なんだ。小僧。何の用だ?ピンポンダッシュだったらとりあえず殴るぞ。」


これが僕と、人生の師匠、モララーとの運命的な出会いだった。

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