第2話 二人の門番

ハクナ城は日中であれば国民は誰でも出入りできるので、こそこそ出て行く必要はない。


だけど、城を出るための門の左右には門番が立っていて、城を出ようとするといつもどっちかが付いてきてしまう。


もしそうなったらモッコスとの入れ替わりがバレてしまうので、今はモッコスの変装を借りている。


「よお!モッコス。城から出るなんて久しぶりじゃないか?どうしたんだ、お使いか?」


門を通り過ぎようとしたところで、門番のヤーマンに声を掛けられてしまった。


僕にそっくりのモッコスが、僕にそっくりなことがバレないようにしていた変装を僕がやると、当然、モッコスのようになるわけで、僕は今、モッコスになっているのだ。


ヤーマンは、僕がまだ文字も読めないくらい小さな頃から門番をやっていて、門番のベテランだ。実はハクナ王国で1番の魔法剣士らしい。「らしい」と言うのが、その情報源がヤーマン自身であり、ヤーマン以外からそう言った話を聞いたことがないからだ。

彼から剣を学んだことはないけど、女性の口説き方とかを、僕に助言してくれたりする。


そんなヤーマンは、いつも今みたいな感じで、ここを通る人に気さくに声を掛けているから、ここを通る人はほとんどがヤーマンの顔見知りなわけだ。


そのヤーマンを誤魔化せるなんて、僕の変装はかなり完璧なようだ。


「違うよ。ヤーマン。僕は休暇をもらったから、ちょっと羽を伸ばしてくるんだ。」


「休暇か〜。うらやましいな。門番はヤーマンに任せて、私も今度休暇をもらって、旅行でもしようかしら。」


もう一人の門番セリアも僕がウーヤンであることに気付く様子はまったくなく、会話に混ざってくる。


セリアは子供好きで色んなことを教えてくれるのが上手な女性の剣士だ。僕は彼女から、剣術や槍術を教えてもらっている。


剣だけでなく、神官や僧侶が使うような神聖魔法を扱える事から、女性でありながら、この国の守りの要でもある門番を任されているのだ。


「セリア。旅行に行くなら、俺と行こうぜ。西の【カサーブ山】からの夜景や、南の【死の砂漠】の砂丘なんかもおススメだぜ」


「何がオススメなのよ。どっちも結構強い魔物が徘徊している魔境じゃない。」


ハクナ王国では、魔物が出る地域を魔境と呼んでいる。逆に言うと、魔境と呼ばれる地域を除いて魔物が出る所はほとんど確認されていない。


僕が憧れる【マタタ古代遺跡】には、魔物は出ないらしいから魔境には分類されていないはずだ。ただ、詳しくは分からないが、たまに人を襲う機械が出ることがあるらしい。


「だからいいんじゃないか。襲いくる魔物を、俺の魔法剣で颯爽と倒す姿見たら、セリアも俺に惚れちまうぜ」


ヤーマンがいつものようにセリアを口説いている隙に、僕は街へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る