酔っ払い

「……お前には関係無い。じゃ、おやすみ」


扉がバタンと閉まり、足音が遠ざかっていく。

拍子抜けだった。結構な覚悟をして、ここに来たのに。妹さんの服を着る。特に変わった所のないどこにでも売ってそうなパジャマだった。

あの人は何がしたいんだろう。

私の手を握ったとき優しかったから、きっと優しい人だろう。そう思うと急に安心出来て、眠たくなった。

ベッドで寝るなんて、中学の修学旅行以来だ。羽毛布団は暖かくて、公園の寒さが嘘みたいだった。


………

……………


どれくらい寝ただろう。外はまだ暗いけど、公園でも寝たからか、もう眠たくない。

少しだけ、部屋の外を見てみよう。たぶんもう寝てるよね、あの人。

扉を開けると、人の話し声が聞こえた。ビックリしたけど、テレビの音だと気づいた。

まだ起きてるのかな?ソファで寝落ちてしまったんだろうか。

確認しに行こうと部屋を出て、一歩踏み出すとテレビの音がパタリと止んだ。

変わりに足音が近づいてくる。

怖くて動けなかった。勝手に部屋を出たこと怒られるかな……。


「悪い、起こしたか」


「いえ……」


私が答えると彼は満足そうにした。

怒ってない?というより、酔っぱらってて機嫌良さそう。最初よりもお酒の匂いが強くなってる。

彼は寝室の向かい側にある部屋に入ろうとしていた。


「あの、もうベッド空いてるので、よ、良かったら寝てください」


「いや、俺はまだ仕事がある」


「仕事、ですか」


こんな時間に仕事。大人って大変だな。


「なぁ、いつでも逃げて良いからな」


そう言われて、どうしようもなく不安になる。

気づいたら、彼の裾を握っていた。


「どうした?」


「わ、私、いない方が良い、ですか?」


「そんなわけないだろ」


彼の大きな手が、私の方へ伸びてくる。思わず身構えた。でも、優しく頭を撫でられた。

誰かに頭を撫でられたのは初めてだった。

彼は仕事部屋に入った。

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