トースト

目が覚めると仕事部屋にいた。

なぜだ?しかも、頭が痛い。昨日はテレビ見てて、親父に貰った酒を思い出して……。


「あ、お、おはようございます」


目の前には美少女がいた。

憶えてたけど、唖然としてしまった。なんでまだいるんだ。普通冷静になって出ていくだろ。


「ご飯出来てるので、良かったら」


「え、ありがとう……」


仕事部屋を出る。バターの良い香りがする。二日酔いの体調不良は飛んでいってしまった。

リビングのテーブルにトーストと目玉焼きと焼いたベーコンが綺麗に皿に乗っている。

見てるだけで腹が鳴る。この家でまともな飯を食うのは初めてじゃないか?


「いただきます」


まずは目玉焼きにかぶりつく。


「うまいっ」


彼女が嬉しそうに見ている。何してても可愛いなこの子。


「もう飯食ったのか?」


「え?あ、えっと、食べまし、た…?」


怪しい、とてつもなく怪しい。

口の端にお菓子をつけた子供が、何も食べてないよ、と言ってるときくらい怪しい。


「そんなわけ無い。食パンは一枚しか無かったはずだ」


これで本当に食べていたら、この子は朝からカップラーメンを食っていることになる。ギトギトの豚骨スープの。

俺は柔らかいトーストを半分に割って、そこにベーコンを乗せて折りたたむ。


「食え」


ベーコントーストを彼女に渡そうとする。


「いっ、いりません、大丈夫です」


彼女の横に移動して再度命令した。


「食え」


「本当に大丈夫ですから」


「じゃあ口開けろ」


「あなたが食べてくださいっ」


俺は思い浮かんでいたが、口に出さないようにしていた言葉を吐く。


「お前な、誘拐された身なんだぞ、立場分かってるのか?」


そう言うと、彼女は困ったような顔をした。そして俯いた。


「ごめ、ごめんなさい」


その声色が弱々しくて、焦る。


「いや、悪かった。今のは悪い冗談だ。食ってください」


今度は素直に受け取る彼女。小さく「いただきます」と言ってチビチビ食べ始めた。

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