日常
第2話 ママさんの怖いとは?
ママさんが手にすっぽりと入るくらいの四角いものを持って何やら呟いていらっしゃいます。
「怖い怖い。もう無理。もう無理。」
ママさんの目の前にはさっき持ってきた人間が肌につけるもの、多分洋服というものなのでしょうか。それをいつもママさんは触って何やら作業をして綺麗にいくつかに分けるのでございます。
暑い季節は1日に何度もその行為を繰り返すのですが、寒くなると1日一回程度になることをわたくしは存じ上げております。でも本日はカラオケなるものに出かけててしまったらしく、この時間が今になったとか。
わたくしは思いましたわ。カラオケなるところから帰ってきた後もパパさんが今日は家に帰ってこないことを良い事に、ご飯は昨日から何やら作っていた丼もの、つまりはわたくしにたまにくださるカリカリに鰹節をかけたものみたいなものを人間の子どもに食べさせておりました。まぁそれは、わたくしが食べるような透明の袋に入ったものをかけるのではなく
「半額だった! めっちゃ良い肉! 明日牛丼!」
と昨日喜んで買ってきた何かのお肉でこしらえたものなのですが。わたくしはこしらえてもらったことが捌いた魚しかないので少々羨ましいとは思いましたが、まぁ良しとしてあげました。
そんなわけでママさんはこの後、
「はよ準備しろって言っとるやろが! 塾に間に合わんて!」
などと言いながら、人間の子どもを誰やかれやとどこかに連れて行きお忙しそうだったわけなのですが、しばらく経ち、人間の子どもが寝静まった後、ひとり四角く平べったい光るものに向かい、おビールなるものを飲みながら小さな四角いものをたまに見ては
「まじ無理! まじ怖いから無理! カーテン閉めとこ!」
などと言いながら、今に至るのでございます。
ママさんはもしやお馬鹿なのでしょうか。でしたらそんな四角い世界の物を見なかったらいいのに。わたくしは即座にそう思いながら椅子の上で丸まり、そのお馬鹿なママさんをただ今観察しております。
人間というものは全くもってわたくしども猫にはわからない生き物です。恐ろしい物をわざわざ見ようとするだなんて。
多分本日のママさんは猫ファーストのパパさんがいないことを良い事に、美味しいおビールなるものをもう少し嗜むのでしょう。そして、嗜みながら、おお怖いと光る小さな四角いものを見るのでしょう。
でもそんなママさんがわたくしは大好きなのでございます。
暖かい部屋の開いた扉に気づき、
「もう猫一匹分空いてて寒い!」
とぼやくママさんが愛おしいのでございます。申し訳ございませんねママさん。開けることはできても、閉めることができません。
さてさて、こんなママさんは人間の皆様にとって「アリ」なのでしょうか。いつかこれを読んでくださってる人間の方々がもしいらっしゃるのであれば、お伺いしてみたいと常々思っている次第でございます。毎日一人でお話しをするママさんの方がわたくしは怖い。
では、わたくしももう深夜ですので、今日はこの辺で。先ほど開けた扉をママさんが気づかないうちに失礼したいと思います。
追記
ママさんは寒い! と言いながらわたくしの開けた、と言ってもわたくしが通れるくらいしかありませんがその隙間を忌々しくバンと閉めに行き、そのついでと言いながらおビールなるものをプシっと音を立て開けて飲み始め、いまだ乾いた洗濯物を畳まないでいるのでございます。こんなママさんは「アリ」なのかどうか、やはりわたくしは読んでくれている方々がもしいればお伺いしたと思うのでありました。2021年12月某日。 記:小林ふく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます