続・秘事は睫毛か、

和響

始まり

第1話 わたくしは猫でございます


 わたしくは猫でございます。名を福(ふく)と申します。わたくしの住んでいる小林さんちにきてはや10年。あまりにもママさんの奇妙な行動が目につきますもので、不思議に思った事柄やその他諸々毎日起こる小林さんちの内緒のお話をどなたかにお伝えしたくなってしまい、こうしてお話しさせていただいているところです。


 全てこの小林さんちで起こった本当の事柄ですので、小林さんちの名誉のためにも他言無用でお願いいたします。


 

 さてさて、本日の小林さんちのママさんはと申しますと、本日は何やら昨晩美味しいおビールなる物を飲まれましたようで、朝人間の子ども達が起きてきてもぐうすかと寝室で寝ておりました。小林さんちは一階に全ての生活空間がございますので、寝室のドアを人間の子どもが開け、お母さん朝ごはんは? と声をかけましたが、なんとこともあろうかママさんはお布団なるものに入ったまま


 「炊飯器にご飯あるやん? それ食べといてー」


 と申しました。わたくしは耳を疑いましたわ。まさか自分のお子様にそんなことを言ってさらにぬくぬくと自分のお布団で寝てしまうだなんて。なんとひどい母親なのでしょう。時刻はいつも朝テレビなる四角い箱が何やら話し始める時間。

 あと小一時間もすれば人間の子ども達が学校に行く時間でございます。朝ごはんを作ってあげなくてよろしいのでしょうか。そういえばわたくしもママさんに何種類かの味を変えてもらったり、たまに捌いたお魚を私ども猫にお裾分けしていただいたことはありますが、お料理となるとカリカリに鰹節をかけることしかしていただいたことがございません。人間の子ども達にも同じことなのかもしれないと思ったらわたくしは妙に納得できました。


 でもわたくしは猫でございますので、人間の子らにそれでいいのだよ、普通ですよ。と言ってあげることができません。ただただその様子を丸くなりながら眺めておりました。するとこの小林さんちには五人の人間の子どもがいるのですが、二番目の人間の子どもが


 「自転車パンクしてるから車で送って。」


 と申したじゃないですか。実はわたくしの住んでいる小林さんちの周りは畑や田んぼが多く、学校なるものに通うためには自転車で行かなくてはいけないのです。自転車とはわたくしがいつも日向ぼっこしているところに置いてある人間の子どもの乗り物です。全く人間という生き物は、乗り物に乗らないと遠くまで行かないなんて、本当に手が焼けますわ。わたくしは小林さんちの周りでしたらぐるっと結構な範囲遊びにさっと行くことができますのに。


 ある時、人間の子ども達があんまりにも心配でついて行ったことがございます。あれはある冬の朝のことです。他の家の人間の子どもも何人かで列になり、学校なることろへ歩いていくのです。するとあろうことか、小林さんちの四番目の子どもが、わたくしよりもだいぶ年下の若い子娘がわたくしに


 「ふくちゃんこっからきたら行かんよ、迷子になるで」


 と言って、わたくしを追い払おうとしたではないですか!

 もうわたくしは頭にきてしまって、わたくしよりもだいぶお若いあなたにそんなことを指示されたくないわ! と思いさらについて行きました。わたくしは心配してついてきてあげてるのですからと。すると小林さんちの三番目の人間の人間の子どもが


 「ダメだよふくちゃん、迷子になって家に帰れなくなるよ。」


 と言ってくるではないですか! わたくしは三番目の子どもよりもずっと大人でありましたので、なんてことをこんなお姉さんのわたくしに言うのだろうと思い、無視をしてついて行きました。


 するとこともあろうか小林さんちの三番目の人間の子どもがわたくしを抱き上げ、家まで引き返したじゃないですか! もうわたくしはびっくりしてびっくりして嫌だ嫌だと腕の中でもがきましたが、わたくしが思うよりも小林さんちの人間の子どもの力は強く、私は家に戻されてしまいました。


 その時も、ママさんは子どもを車で学校に送って行きました。


 そんなことを思い出しながらやりとりを聞いていた本日。ぬくぬくとお布団で人間の子ども達に炊飯器なるものからご飯を食べなさいと言って寝ていたママさんは、あの日と同じように、人間の子ども達を連れてどこかに行ってしまいました。


 多分、学校なるものに行くのでしょう。テレビなる四角い箱から人間の子ども達がいなくなってから聞こえてくる占いのようなものが聞こえてきます。なんで猫座とやらや猫年とやらがないのかと毎回憤るあの音です。


 そんなこんながありまして、ママさんが帰ってきていつもの見逃し配信ドラマなるものを見ながらお友達と電話をしてリビングなる場所を掃除しながら洗濯機なるものを動かし、お料理を作る場所にはまだ洗っていない器があるのですが、ママさんはまいっかと言ってどっかに出かけて行きました。


 わたくしは少し心配でしたが、これでゆっくり寝れると目を閉じました。


 どれくらい経ったでしょう。


 「はーむっちゃたのしかたわ。カラオケ。」


 と言って、ママさんがご帰宅されました。


 人間の皆様、カラオケとはなんのことでしょう。わたくしには皆目見当もつきません。洗って干していない洗濯物と洗うことのない食べ物を食べた後の器をそのままにしてまで大切な物なのでしょうか。


 いつかわたくしもそのカラオケなるものがなんなのか、知りたいと思いながら本日の秘事ひめごとをおしまいとさせていただければと思います。



追記


人間の子ども達が寝静まった深夜。ママさんは何やらいつもの四角い光る板に指を動かし、その後、出かける前に洗っていた濡れている衣服を干しました。

明日までに乾かしといてよと言い残し寝た人間の子ども達の願いは叶うのか、いささか心配なふくでございます。



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